茶一郎

猿の惑星の茶一郎のレビュー・感想・評価

猿の惑星(1968年製作の映画)
4.3
 言わずと知れたSFスリラーの金字塔。
 「郷に入っては郷に従え」と言っても、その「郷」が「猿の支配する土地」だというのは誰だって嫌なはず。専ら、今作の原作者ピエール・ブール氏はこの『猿の惑星』を、第二次世界大戦中、駐仏日本兵の捕虜になった体験を基に書いたというのですから、この「猿」は我々、日本人ということになります。ちなみにピエール・ブール氏は日本兵に強制労働を強いられるイギリス人の捕虜を描いた『戦場にかける橋』という作品も作っています。

 しかし優れたSF寓話は様々なメタファーになり得るものでありまして、この『猿の惑星』は、公開当時のアメリカにおいては、有色人種、黒人、ベトナム戦争下のベトコンに支配される白人(その白人を演じるのは白人代表俳優とも言えるチャールトン・ヘストン!)という構図を浮かび上がらせ、この『猿の惑星』は時代を超えて支配-被支配の関係が逆転する恐怖を観客に突きつけます。そして特に、この恐怖は他者を差別・支配(していると勝手に思っている)している人にこそ深く突き刺さるもののようです。

 一見、「猿に支配される人間」という設定が際立ちますが、今作には猿版の進化論を否定するキリスト教原理主義者的オラウータンと不信仰として裁かれるインテリの科学者チンパンジーとの対立など、後の『続・猿の惑星』でより発展する「猿間の対立」や、猿の惑星に迷い込んだ主人公テイラー(チャールトン・ヘストン)の冒険モノなど、様々な要素が互いを殺さない配分で含まれているというのも今作の優れた点に思います。
 何より観た者全てをトラウマに追い込む衝撃のラスト。今作は最高のドンデン返しムービーでありながら、作品のパッケージがネタバレ全開だったり、一般常識として今作のネタバレがパロディなどに使われたりと中々、ネタバレを回避しづらいという大問題点を抱えています。
 かの水道橋博士は「子供の物心付いたら、すぐに、ネタバレを踏む前に『猿の惑星』を見せる」と仰っていましたが、私にも子供ができたら真っ先にこの『猿の惑星』を見せて、衝撃のラストを純粋に体験させてやりたいものです。
茶一郎

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