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キングス&クイーンのnetfilmsのレビュー・感想・評価

キングス&クイーン(2004年製作の映画)
3.9
 パリで画廊を経営し、順風満帆な生活を送るノラ(エマニュエル・ドゥヴォス)はシングル・マザーで、一人息子であるエリアス(ヴァランタン・ルロン=ダルモン)を父親(モーリス・ガレル)に預けている。その父親の誕生祝いに2人の元を訪れたノラは、父親が末期ガンで余命いくばくもないことを知り、心が乱れる。パリの街並を車内からゆっくりと車窓からの景色を据えたカメラと、その車の中から意気揚々と出て来た1人の女性。画廊の仕事は順調で、私生活では求婚されるなどとても充実した生活を送っている。しかしエマニュエル・ドゥボスが幸せなのはファースト・シーンくらいで、その後は死を目前にした父親を看病する女の焦燥感がこれでもかと胸に迫る。前作『エスター・カーン めざめの時』では19世紀の英国を舞台に、女優になる夢を持ったヒロインのシンデレラ・ストーリーをストレートに描いたデプレシャンだったが、今作では再びパリに戻り、マチュー・アマルリックとエマニュエル・ドゥヴォスの2人を主人公に、またしても男と女の複雑な悲喜劇を描いている。

 女性の方は父の死期を悟り、男性の方は姉を激しく憎むことになるのだが、映画を通してデプレシャンは家族に目を向ける。デプレシャンの映画では決まって、誰かが死を迎えようとしているところで家族が再び集まり、様々な葛藤を引き起こしていくのだが、今作も父の死を迎えようとしているエマニュエル・ドゥヴォスの元に、婚約者や離れて暮らす連絡の取れない妹やマチュー・アマルリックが徐々に引き寄せられていく。今作ではノラとイスマエルに婚姻関係はない。ただ1年前まで、7年間息子エリアスと共に3人で暮らした記憶だけがそこには残っており、エマニュエル・ドゥヴォスはエリアスとイスマエルに養子縁組を結ばせようとする。まるで『そして僕は恋をする』のように女性側の願いは身勝手なものだが、マチュー・アマルリックはその気持ちを受け止めようと葛藤する。この葛藤こそが第二部の肝であり、クライマックスのエリアスとイスマエルの対話は2000年代屈指の名場面である。緻密に練り込んだ脚本の素晴らしさもさることながら、カメラマンとして監督と共犯関係を結ぶエリック・ゴーティエの仕事ぶり。ステディ・カムで時に本当に短いショットを幾重にも積み上げながら、デプレシャン映画にかつてないほどのリズム感が備わったのは、エリック・ゴーティエの野心的なカメラワークに負うところが大きい。
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