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肉体の冠のRのレビュー・感想・評価

肉体の冠(1951年製作の映画)
5.0
何て豊かな映画でしょう!ベッケル作品を見るたびに幸せを感じる不思議。こんなに哀しい恋愛話なのに。どの作品もベタっとした人間臭さが溢れてるからなんだろうなー。こんなに泥臭さを感じさせる映画を作ってる人、他にいないんじゃないかってくらい。本作の主人公は、ギャングの仲間たちとつるんでカフェで遊んでる娼婦のマリー。ロランというギャングの一人と手を取り合ってダンスする彼女を演じるのは、全体的に身体がゴツく、顔も全パーツでかくて、迫力満点のシモーヌシニョレ。今までこの人なんでそんな人気なんやろと不思議やったけど、本作を見てはじめてスゴイ魅力を持った人なんだと思った! ロランは彼女に気があるんだけど、彼女は音楽に合わせてクルクル回りながら、別の男に色目を送っている。このシーンのシニョレのあでやかなこと! 何ら力みのないリラックスした微笑から、くるりくるり動きに合わせて、美のオーラがふわっふわっと放たれる、礼讃すべきお色気ショット! 素晴らしい! それを受ける男はマンダと名乗り、ギャングの一員の親友で、もともとワルで服役したが、足を洗っていまは大工さんをしてる。ふたりはこの後ダンスを伴にして恋に落ち、嫉妬したロランはマンダに決闘を挑んでナイフ戦となり、その後警察に追われる身となってしまうのだが、彼らの動きを裏で巧みに操り、マリーを自分のものにしようと企む男がいた……という流れで、メインの恋のいざこざ話に関しては、いまの恋愛劇にはない不器用に直球な趣があってそれはそれで大変によろしいのだけれど、やっぱ見どころはさすがベッケル、脇役によって吹き込まれる映画の生命感、人情のドラマ、その躍動と奥行き。カフェで彼らの存在を煙たがるハイソな女たち、ソワソワ秘密裏に何かを行ってるらしいバーの若き店員、マンダの浮気にふて腐れる大工の棟梁の娘、出ていこうとするマンダにお金を与えようとする棟梁の無言の心意気、などなど、忘れ難いサブキャラによってベッケルが構築する人間感情の複雑さがほんとに素晴らしい! もちろん忘れてならないのがパン屋というあだ名の男とマンダの宿命的友情。最後に、画の美しさにもふたつだけ触れておきたい。マリーがボートを漕いで岸に上がり、眠れるマンダにイタズラするシーン。モーテルの窓から恋の運命の帰結を涙ながらに眺めるシーン。このふたつは、まるで歴史に刻まれたサイレント映画の名シーンのように、鮮やかな詩情が心に染みる。それ以外もすべてのシーンが、白く発光してるかのように記憶に焼きつく、小さなドラマの大いなる名作! メロドラマの頂点! すばらしい余韻から1ヶ月以上経った今も抜けられておりません! お勧めがなければ絶対見てなかっただろう。お勧めくださったお方、感謝感激っす!!! 今まで見た映画のトップに食い込んでくるくらい好きになった!!! というわけでとりあえずベストムービーに入れて数ヶ月ねかしてみます。何度も見たいのでBlu-ray化待望!!! お願い!!!
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