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砂の器のRのレビュー・感想・評価

砂の器(1974年製作の映画)
4.6
今回が4回目の鑑賞。1回目は大学生のときで大号泣、2回目はDVDで見て感動するも1回目ほどではなく、3回目はBlu-rayで2回目よりさらに感動が減り、そういうものか、と思って、いや、一応もっかい見ておこうと思って見てみたら、やっぱり素晴らしい映画だった! こんなに見るたびに印象が変わる映画も珍しいわ。冒頭、2人の刑事が秋田県の亀田という田舎を訪れて、何やら事件の手がかりを探してるらしい。真夏の猛暑のなか、汗を流しながら長閑な景色のなか捜査をしてるふたり。それは東京の国鉄の操車場で起こった残忍な殺人の捜査なのである。東京のスナックで、被害者がズーズー弁を喋り、亀田と何度か口にしていたのを、女が耳にしていたらしい。ところが亀田に行っても何の収穫もなく、東京に戻った今西警部はふと思いついて国語研究所に行くと、ズーズー弁は東北だけでなく出雲地方の一部でも話されてることが分かる。で、そこに出向いてみるのだが、そこでも収穫がなく…という感じの広範囲の出張捜査の様子と、世界的名声目前の神童音楽家和賀が、政界のVIPの娘と交際しながら、何やら事件に関係のあるらしい別の女と親密にやりとりしてる様が描かれていく。一体ふたつの話はどうつながって行くのだろう…てか、まぁ正直、大体の流れは読めてまう。頻繁な字幕による状況説明でテキパキ話を進める一方、遅々として捜査が進まないのを見るのは、以前何回かはちと退屈したけど、今回は結構楽しめた。どこか独特なテンポと雰囲気、昭和日本の空気感が、見てて面白かった。で、だんだんとテンションが上がり、事件の背景が暴かれていく後半は、ふたつのストーリーに、更にある男の過酷な人生の物語が加わってくる。和賀が楽曲『宿命』で奏でるエモーションの激流のなか、不遇の宿命を負った人間が、冷酷な運命に流転する苦悩の人生が、哀しいほど生命の汪溢する美しい四季の風景の中で、サイレント映画みたいな演出で展開する。その演出と楽曲が絶頂に達したとき、おっさんがしぼり出す慟哭に、涙を禁じることなどできるわけがなかろう! 悲しすぎる!!! 人間の人生とは、あるいは、子どもが板の上に作った砂の器の如く、風に吹かれて、もろく、はかなく、崩れ去るものであるかもしれない。しかし、その周りで、生命に満ち溢れた大自然が、大宇宙が、生と死のリズムを繰り返しながら永遠に存在していることも、また同時に事実なのである。この鮮やかなコントラストを、見事にスクリーンにおさめた本作は、ミステリーとしてはまぁまぁかもやけど、堂々たるヒューマンドラマの傑作だと思った。あと、個人的に思ったのは、たとえ最高級の善意であったとしても、絶対に人に押しつけてはいけないな、と。個人の選択の自由とは、これほど大切なものはない。もし状況を変えるために、相手を変えたければ、胸襟を開いて、率直に、素直に、敬意を忘れず、愛を込めて語り合うことが大切だ。ちなみに、最後の最後はほんのちょっとだけ過剰演出気味なのが気になった。丹波哲郎のハンカチーフだけ…。それにしても森田健作は髪型変だけどイケメンやったなぁ。あと脇役豪華すぎ。何かひさびさに黒澤の生きるが見たくもなった。近日中に見よ。
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