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砂の器のHKのレビュー・感想・評価

砂の器(1974年製作の映画)
4.3
松本清張原作の小説を「八つ墓村」後に「震える舌」などを監督する野村芳太郎、そして黒澤明監督作品を共に築き上げた脚本家橋本忍と「男はつらいよ」シリーズなどを手掛ける名監督の山田洋二が脚本を手掛け松竹で実写映画化した作品。

松本清張の原作小説をドラマ化した作品はよくよくテレビドラマなどでも見ていましたからね、でも映画についてはあまり見たことはなく今回が初めての視聴でした。

映画の構成は前半と後半で大幅に異なる。前半では警察による犯人捜査を軸とした王道のサスペンス展開をしている。よくよく映画ではこういう説明的な表現が気に入らないという人間が多いが、個人的にはこうやって解決の道に少しずつ近づいてく様子を丁寧に描いている様子を見るだけで、かなりの満足感を得ることができる。

故に、サスペンス映画作品が好きなのかもね。しかし、今の時代に方言のちがいを調査するなんてグーグルさえあればすぐに解決しそうなことを調査員が地図を買うなり、電車で足を運ぶなりする光景を目にするだけでも、その過程を楽しむことができる。

黒沢明監督は橋本忍さんからこの小説を映画化する際に、東北に赴くシーンはいらないと言ったらしいね。そんなことはない、美しい自然風景で絵作りさえしていれば決して無駄な展開にはならないのである。

しかし、流石としか言いようがないロケ班たちの頑張りっぷりがそれぞれの撮影場所から分かることができる。今のドラマでもそういう場所に赴いて撮影はしているけど、この頃は本当に綺麗でいいですね。

特に美しいのは出雲地方の亀高ですよ。屹立した山々に覆われ、あたり一面緑生い茂る草木に覆われ、所々に広がる段々畑などは日本の原風景を思い起こさせますね。本当に綺麗で景色だけでも圧倒されます。

そして、後半は事件の解明と同時に、加藤剛演じる音楽家がどのような人生を歩んできたかというものをピアノ協奏曲「宿命」にあわせ、まるでPVのように音楽と映像だけで構成しています。

新海誠さんとかもよくよくこのPV撮影法を映画に取り入れていますね。そして、このような犯人の回想録を舞台となるローカルな土地で幻想的に長尺で描くという構成は「八日目の蝉」でも描かれていたように感じた。しかし、あっちはこの映画のようないい音楽がなかったせいで退屈になってしまった節がありますからね。

本来であれば、回想シーンなど普通に流せばダイジェスト的になってしまうため、長々と流せば退屈になってしまうものです。しかし、この映画はその部分を壮大な音楽と素晴らしい観光風景により見事なまでに飽きさせず持続するということを成し遂げています。

このように、どこかエモーショナルな表現は、言葉や台詞によってではなく、音楽と映像で構成してこそ、真の意味で心に来る作品となるのです。

いや~流石ですね。そしてそんな美しい風景の裏では陰湿なハンセン病差別が行われている光景を哀愁漂う曲で構成するというのも映画として見事なまで完成されているといえるでしょう。

ただ、ちょっとばかり緒形拳演じるあのお巡りさんが殺され原因が浅かったのが残念だったかな。しかし、そんな思いですら帳消しにするようなあの母娘に対する仕打ちはやはりこの映画が持つ社会的な意味を心に植え付けるには十分な作品となっています。

推理小説やミステリー小説の映画化は、日本だとパッとしない出来で終わってしまうことが多いのですが、この映画は数少ない成功例と言えるのではないのでしょうか。

丹波哲郎さんと森田健作さん、そして何よりも演奏シーンの加藤剛さんの演技も相まって後半は重厚なヒューマン映画となっていてとても良かったです。

何度でも見てみたいと思い起させますね。
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