こたつむり

砂の器のこたつむりのレビュー・感想・評価

砂の器(1974年製作の映画)
4.8
★ 大切なものは
  何があっても手放してはいけない

これはね。ヒドイですよ。
完全にピンポイント爆撃ですからね。
「これでもか、これでもか」という展開に涙腺は崩壊し、身体の水分は流れ果てたかのよう。いやぁ。砂の器とは観客のことだったのですね。もうカラカラですわ。

でも、表向きはミステリ仕立てなのです。
秋田、島根、石川、大阪…と旅情を誘うように全国を飛び回って事件を追う物語。捜査が空振りに終わる瞬間も収めているので、冗長気味ですが重厚な手触りなのです。

しかも、俳優さんたちが格好良いのですよ。
事件を追う刑事役の丹波哲郎さんは唸るほどの存在感ですし、若き日の森田健作さんも血気盛んな刑事役が似合っていました。また、出番は少ないのですが、緒形拳さんの笑顔は網膜に焼き付くほどに印象的。

そして、何よりも加藤嘉さん。
表向きのミステリを覆すほどの迫力は圧巻の一言しかありません。ある場面では、裏で流れる楽曲と混然一体となってぐわんぐわんと揺さぶってきますからね。反則ですよ。そりゃあ、カラカラになるのも当然ですわ。

また、原作への敬意が滲み出ているのも最高。
時おりに挟み込まれる字幕は、少しでも小説の雰囲気を伝えようとする演出じゃないでしょうか。それに濃密なテーマを毀損することなく、真っ向から描いているのも見事。やはり、大切なのは“想い”なのです。

だから、伏線を放置するのも同義なのでしょう。胸の奥に想いが届くように、という姿勢で“現実に落とし込んでいる”から、登場人物たちの“執念”が際立ち、偶然を呼ぶ展開に納得できるのです。これをご都合主義と呼ぶのは早合点だと思いますよ。

まあ、そんなわけで。
胸の奥に響くのは砂が零れていく音。
それは鳴りやまない拍手と同じ。
あまりにもツボ過ぎて絶賛しかできない物語でした。特に“父親視点”で鑑賞すると、カラカラになるまで搾り取られるのは確実。こまめな水分補給をオススメします。
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