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砂の器の821のレビュー・感想・評価

砂の器(1974年製作の映画)
5.0
なんで私はこれまで、名作邦画を見てこなかったんだと猛烈に後悔しました。素晴らしい作品でした…。

砂の器は何度もリメイクされてるみたいですが、どのバージョンもまったく見たものないので、まっさらの状態で鑑賞。なのに「東北弁のカメダ」に物凄い既視感を憶えると思ったら、踊る大捜査線だったのか…。

とにかく、序盤はストーリーもですが、ひたすら70年代の情景に、先日みた「犬神家の一族」同様、歴史博物館を訪れたかのような興奮感を持って鑑賞 (特に全国各地の鉄道が出てくるところもよい)。銀座のバーやカフェとか、警察署もそうだし、今の時代じゃなかなか作り出せない当時の風景がたまらなかったです。(でも居酒屋の様子は今も変わらなくて面白い。) 宿命の音楽と相まって、完全なるノスタルジー。

後半はただただ、涙涙でした。父息子の放浪のシーンは美しくも悲しい。千代吉の一挙一動がもう…。なんと残酷で、哀愁が常に漂っていて…。そして、白髪混じりの緒形拳が、秀夫に向かって父に会いに行けと力説するシーン、一瞬だったけど忘れられないなあ。ピアノを弾き切る秀夫の姿と並んで。

*追記
ネットで調べていると、昭和10年代当時のハンセン病に対する差別が私の想像を絶するものだということを知りました。「遺伝病」だという誤認が広まっていたこと。誤った輪廻転生の解釈により、ハンセン病を患った人は前世の「業」がふりかかった業病だと考えられていたこと。
発症した患者本人だけでなく、家族全員が差別され、迫害されていたこと。
その背景を鑑みると、戸籍を詐称し、まったく別人として生まれ変わる必要があると考えるのもやむを得ん、という点も納得…。「宿命」もより一層重いものに感じられる。
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