ひろ

ものすごくうるさくて、ありえないほど近いのひろのレビュー・感想・評価

3.6
ジョナサン・サフラン・フォアの同名小説を原作に、スティーブン・ダルドリー監督が映画化した2011年のアメリカ映画

スティーブン・ダルトリー監督作品はアカデミー賞の常連だし、この作品は有力候補と予想されていたのに、批評家からも賛否両論、あらゆる映画賞に無視されてしまった。しかし、この作品を観た日本人の評価は軒並み高い。この作品は911のテロを題材にしている。いくら時間が経ったとはいえ、当事者のアメリカ国民にはナイーブな問題だ。アメリカの映画賞が評価するのは難しかったのだろう。日本人が「地下鉄サリン事件」を感動的に描いて賞が獲れるか?というとこだ。客観的な立場で観るからこそ、この作品の良さが解るのかもしれない。

同時多発テロで父親を亡くした少年。誰よりも父親が好きだった少年の喪失感。それは計り知れないものだが、この少年は自ら気持ちに区切りをつけようと立ち上がる。亡き父親の意志を追いながら、少年は成長する。父親の遺したカギの鍵穴を探すというのが良かった。同時多発テロの犠牲者の悲しみを煽るわけでなく、そこにある悲しみを受け止めつつ、未来を見据えようとする描き方に感動した。少年の物語ではあるが、母親の愛の物語でもある。少年を包み込む母親の愛に涙することだろう。

亡き父親という登場の少ない役にも関わらず、父親役をトム・ハンクスが演じている。亡くなっても存在感のある父親でなければダメだから、トム・ハンクスの存在は大きかった。父を亡くした少年を守る母親役をサンドラ・ブロックが演じている。いい意味でオーラを消していて、母親になりきっている。50歳に近づいてサンドラの演技も円熟の時を迎えている。

間借り人を「エクソシスト」の神父だったマックス・フォン・シドー、アビー・ブラック役を「ヘルプ~心がつなぐストーリー~」のヴィオラ・デイヴィスが演じ、演技派の力を見せつけてくれていた。

そして、何より注目されたのが主人公オスカー役のトーマス・ホーンだ。天才子役だなんて簡単な言葉で片付けたくないが、全く演技に興味もなかった少年が初の映画でこれだけの感情表現をしているのだから驚きだ。数カ国語を話せるらしく、クイズ番組で優勝したことでプロデューサーの目に止まったらしい。素直な子供は大抵天才だと思うので、後は巡り合わせだろう。クイズ番組で優勝するような努力をした少年だからこそ、天才子役と呼ばれることができるステージに立てたのだ。見た目だけで選ばれたタイプじゃないから、この少年の将来は楽しみだ。

「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」というタイトルはなかなかインパクトがある。これは突発的に父親を亡くした少年の心情を表したものだけど、タイトルだけじゃ理解できないが、映画を観るとなんとなくでも理解できるはずだ。その意味はとても切ないんだけど、その心情から決別しようともがく少年の姿が胸を打つのだ。日本人ですら忘れられない911。人は圧倒的な悲しみの波に耐えきれなくなる時もある。しかし、それを乗り越えられる強さも併せ持っている。これは、そんな人間の強さを描いた作品。
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