deenity

ものすごくうるさくて、ありえないほど近いのdeenityのレビュー・感想・評価

4.0
当時は劇場で見た作品ですが、その時はまだあまり内容が理解できず、改めて再鑑賞しました。
以前は生意気な子だと思っていましたが、よくよく見直すとこのオスカーくんはアスペルガーなんですね。その時点で全然印象が変わります。

いつも遊んでくれて一番の理解者である父親の死。9.11の犠牲者となってしまい、それ以降心を閉ざすオスカー。しかし、父からの謎の鍵を発見し、その鍵穴を求めて調査活動を始める。ヒントはブラックという名前のみ。
オスカーくんはアスペルガーなので知的障害はなくてもいろんなことが気になってしょうがない。人とのコミュニケーションも苦手。街の喧騒も大きすぎてまとわりついて、そして父親の死後、9.11以降はそれが尚顕著で。そんな少年が一人、ブラックという名の人を片っ端から声をかけていくこの執念がすごい。当初はそんな姿を図々しく思ってた気がする。今はその子の個性だし、すごい挑戦だと思う。ただ母親の思いを考えると気が気じゃないだろうな。

母親は理解してくれないとわめき散らしたが、友達ができる。間借り人のおじいちゃんだ。この人の演技もまた素晴らしい。トラウマから話すことができなくなってしまったが、語らずともあれだけ表情で表現するのは見事。オスカーにとっても大きな存在だった。

しかし、そんな間借り人とも衝突。大人はその無謀で、期待しているような現実がある表れない挑戦を続けて傷つくオスカーを見てられないのだ。
でもオスカーはそんなこと理解できないし、父親との約束で、思いを汲み取るためにも探求心を燃やし続ける。
それを最後まで見送ったのが母親だ。アスペの少年が一人で知らない社会と関わっていくことがどれだけ心配だったことだろう。少し現実味がない行動かもしれない。しかし、それほどまでの母親の愛の偉大さを感じる瞬間でもある。

きっと彼にとって周りの騒音も、電車やブランコの音も、周囲の人たちも、母親の心配も、間借り人の心遣いも、全部うるさくてたまらないものに囲まれていたのだろう。しかし、そんなうるさいものの中にも自分の味方はいる。ありえないほど見守ってくれる誰かがいる。そういうことに気づけた少年の成長譚だとわかった時、初めて本作の素晴らしさに気づけた気がする。もっと言えばそういう挑戦をさせ続けた父親の教えも欠かせない素晴らしいポイントだ。タイトルも見事。周りの人たちの温かさもすごく良かった。
そんな人たちへのお礼の手紙を書くのも素敵だった。「つらかったけど、やらないよりはいい。」と気づけただけでも大きな成長だ。若干スローテンポではあるが、温かさのつまった作品だった。
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