ジョナサン・サフラン・フォア原作小説の映画化。
アメリカ同時多発テロ事件の犠牲となった父、トーマス・シェル(トム・ハンクス)が遺した鍵の鍵穴を探す息子、オスカー・シェル(トーマス・ホーン)の成長物語。が、9.11を題材にしたことはある意味間違っていたのかもしれないと思う。この事件は映画の設定の一つとして容易に使われることを10年経った今でも拒んでいるように思える。亡くなった方や遺族の物語は"鍵探し"でおさまるようなものではないのだ。トーマスが別の事故で他界したとしても、本作品は成り立つはずである。
ただ、家族の絆を強く感じさせる、切なくも暖かい作品であることは確かだ。
気の利いた物語のトリックで人の絆をつないでいく展開は、最終的にオスカーの救済を目的としている。しかし、鍵穴さがし="ブラックさん"探しとなる本作品はあまりにも出会いが多く、それぞれの発見が薄っぺらな描写にしか見えないところが残念だ。母親のリンダ・シェル(サンドラ・ブロック)や間借り人(マックス・フォン・シドー)との関わり合いを軸に添え、数多くのブラックさんとダイジェスト的出会いをこなしていき、母親の愛情、間借り人との交流とオスカーの触れ合い、ブラックさんたちとの邂逅と、オスカーが一人で抱えていたものの吐露など、彼の心の中でせき止められていたものを解放してやることでようやく希望を見出すことができるところまでを複雑かつ丁寧に描こうとしているのだが、それぞれのエピソードがオスカーの中で分断されてしまっているところで複雑な作品に見えてしまうのだ。
題名のように表現された近しい人の距離感はとても照れくささを感じさせる。そんな暖かい作品だ。