kabcat

囚われの女のkabcatのレビュー・感想・評価

囚われの女(2000年製作の映画)
4.5
プルーストの『失われた時を求めて』の一章を現代的に脚色。男性が女性の後を追う冒頭のシーンから色彩と構図の美しいショットの連続で映像を見ているだけで幸せな気分になる。

恋人アリアーヌに同性の恋人の存在を疑う主人公がつけまわす物語で、前半では始終ふらふらしているアリアーヌが主人公を振り回しているかの印象を与えるが、結局彼女に恋人がいたかどうかを示す証拠はなく、後半になると立場が逆転して主人公の狂気じみた執拗さにアリアーヌががんじがらめになっていく姿(彼女は主体性すら失う)が描かれる。一緒にいても相手が他人に感じられる、というセリフからもわかるようにアケルマン作品全体に通ずる人間の孤独がここでも扱われる一方で、男の妄執的な愛により女が死に追いやられる、という原作の独自の解釈に監督のフェミニスム的視点もうかがえるだろう。この作品の10年ほど前に発表されたパトリス・ルコント監督『髪結いの亭主』と対局をなす作品だと思う。

スタニスラス・メラールの育ちのよさを感じる立ち居振る舞いと陰影のある青白い顔立ちが主人公シモンのイメージにぴったりである。そしてフワフワしていて現実感がないアリアーヌをシルヴィー・テステュが好演している。アリアーヌがノースリーブのワンピースでオープンカーを乗り回したり、シモンが昼は常にジャケットを、夜はナイトガウン(懐かしい響き・・)を着用したりという、フランスの家柄のよいぼっちゃんとお嬢さんの表現を見るのも楽しい。

アリアーヌの付添いのアンドレ役のオリヴィア・ボナミーのボーイッシュな美しさも記憶に残った(ファッションも素敵)。チョイ役でオーロール・クレマンやベレニス・ベジョ、アナ・ムグラリスという麗人たちが登場するのもよき。
kabcat

kabcat