プルーストの小説『失われたときを求めて』を基にした、シャンタル・アケルマン監督のロマンスドラマ。
原作未読。
邦題とオープニングシークエンスから、ストーカー男が恋人を束縛するサイコパスドラマかと思って観ていたら、自分の"男らしさ"に不安・疑念・劣等感を抱いた男が心を病んでいくパラノイアスリラー映画だった。
オープニングに引き込まれた後、やや退屈したが、終盤、作品の本質が見え始めると再び興味深くなった。
男は、恋人が自分ではなく別の女性を愛しているのではないか?という不信感を募らせて、暴走していくのだが、その根底にあるのは男としての自信のなさだと思う。
原題は"La Captive"。『囚われの女』という邦題が付けられているが、"囚われ"ていたのはむしろ男の方だと感じた。"弱き女"を救わなければ、という妄想に囚われた主人公シモンの姿は、『タクシードライバー』のトラヴィスに通ずるものがあった。長回しのラストシーンはなかなか強烈。
男と女の恋愛観の相違。相手の全てを知ろうとする偏執的な男と、知らない部分があるからこそ相手を愛せるという飄々とした女。心ここにあらずのセックスは虚しいだけだ。
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