深獣九

ショーシャンクの空にの深獣九のレビュー・感想・評価

ショーシャンクの空に(1994年製作の映画)
4.0
なんて贅沢な映画なんだろう。
『ショーシャンクの空に』のことだ。

この映画は、ひとつひとつのシーンをじっくり丹念に描き、登場人物たちを鮮やかに浮き立たせている。たとえそこに台詞がなくても、誰がどう思っているのか表情や仕草でわかるのだ。余白や行間を楽しむ映画。捨てるところがない。

懐古趣味ではないが、昔はこんな映画ばかりだった気がする。いまこういう作りで約2時間半の尺は、映画ファンでも気合を入れて臨まなければならない。だが良い映画は時間の流れを感じさせないもの。刑務所の夜はなかなか明けないかもしれないが、この映画の時はまたたく間に過ぎてゆく。余韻も長い。

思うにこれは、情報量の差ではあるまいか。映画に限らず昨今の風潮として、コマとコマの間に情報がぎっしり詰め込まれてるコンテンツがなんと多いことだろう。凄まじきスピードであふれ出すデータ、そのすべてはテーブルに並べられ、ラベルが貼られ右脳のスキマを埋め込まれる。「コレガコタエデスサアドウゾ」と押しつけられたら、心はしぼんでゆくだろう。

時代に振り落とされた私たちに、この映画は水を与えてくれる。たっぷりの水で張りを戻し、私たちはまた、前を向こうと顔を上げるのだ。
自由、友情、希望。そんな言葉を内ポケットから引っ張り出し埃をはたき、また大切してゆくのであろう。
こういう映画が、ずっと愛されて語り継がれる理由である。

アンディやレッドに幸せは訪れないだろうと、心が闇堕ちしている私は途中、完全にあきらめていた。いても立ってもいられず、勝手にメソメソしていた。レッドが黒曜石にたどり着いた時も、まだなにかあるんじゃないかと思ってた。でもそうじゃなかった。彼は、彼らは“希望”にたどりついた。私だけどんでん返しだ。もちろんいい意味で。出てきた尿管結石がダイヤモンドだったかのよう。こんなに嬉しいことはない。

キングの大ファンだが原作を知らない。だが映像に漂う空気や結末の光景から、キングのにおいがプンプンする。キンガーだからわかるのだ。おそらく、かなり原作に忠実だろう。そこも好感が持てる。

この清々しい気分がいつまでも続くといい、と思う。今日はこのまま寝るとしよう。明日観る『死霊のはらわた』までこの気持ちが続きますように。
深獣九

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