Oto

ショーシャンクの空にのOtoのレビュー・感想・評価

ショーシャンクの空に(1994年製作の映画)
4.9
金ロー上映を機にブルーレイを買ってメイキングを手に入れたので、改めて鑑賞(2022.5.21)。
いわゆる名作の中でもかなり特殊な立ち位置・経緯であることがわかった。

まず、脚本への評価はそもそも非常に高く、トムクルーズやニコラスケイジまでも自ら名乗り出たり、巨匠が監督をやらせてほしいと交渉に来たりもしたそう。
キャプラの作品『スミス都へ行く』『素晴らしき哉、人生!』などを参考に、3人の所長を1人にまとめるなど、「神話」的クオリティ(現れて周りの状況を変えて去っていくミステリアスなヒーロー、ニクソン元にした悪徳所長)を高めたり、
『グッドフェローズ』を参考に、小説の一人称を生かしてレッドを語り手として活用して20年をスムーズに描いていたり、
原作では死なないトミーを、明確な敵(手段を問わない悪人)がいることを強調するために死なせてドラマを盛り上げたり、
プロデューサーの意見によって本来はバスに乗るシーンで終わるはずだったエンディングに感動的な海での再会が追撮で加えられたり…(長い苦労が報われることで観客も報われるだろうという意図で、批評家よりも観客を喜ばせる意識が強かったみたい)。
原作のキングも初めは長編映画になるイメージが全く掴めていなかったらしい非ホラー作品を、普及のエンターテインメントに仕上げたということが分かった。
若手監督に映画化権を与える「ダラーディール」で学生時代にダラボンが短編を撮っていたことで関係性があったことも大きかったようで、やっぱり若手の企画は「人の繋がり」と「代表作」で生まれるんだな〜と実感した。

あと、これは原作の手柄でもあるけど、そもそもログラインやテーマがすごくユニークな作品。
自分はてっきりアンディが主人公だと思っていたけれど、レッドとの「バディもの」どころか、むしろレッドが物語の中心とすら言える。
原作ではモブだった図書係のブルックスにしっかり物語を与えている脚色も効いていて、「刑務所から出たくない囚人」という存在はレッドにとってありうる未来だったわけだし、「刑務所に入って悪に手を染めた善人」(一人だけ本当に無実の男)というアンディとの対比も効いてる。
モーガンフリーマンは、「カーレースも何もないけど、これは男同士の友情以上の魂の結びつきであり、恋愛にも近い関係だ」ということを言っていた。ダラボンは「全員に物語と歴史を与える作家」なのでその良さがばっちりハマった作品がショーシャンクなんだろう。

どうしてこんなに刑務所の中の物語がリアルに描けるんだ…?(当事者なのか…?)という疑問すら生まれるけど、独房があることとか、新入りが来たときに一斉にコールが始まることとか、最初の夜が一番きついこととか、実際にあったことらしく、取材が行き届いているんだな〜と感じた。主演のティムも実際に独房に入って感情を想像したりしたらしい。
原作の中身を覚えてない部分もあるけど、ロケ地の「オハイオ州立刑務所」は実際に100年使われていて、撮影の2年前に封鎖され、取り壊し寸前だった場所を解体延期させて撮影したそう。信仰による厚生を目指した宗教的な建築(ゴシック調で要塞のような外装)とか、実際に残酷な懲罰が原因で封鎖になった事実も、物語と相性抜群で、制作部の仕事も素晴らしいな。。
(閉鎖された刑務所がナッシュビルにもあって、そちらは『グリーンマイル』で使ったらしい)

そして撮影。まず原作では白人だったレッドをPの意見でフリーマンに。ティムのキャスティングは「謎めいた雰囲気」が合っているということだったらしいけど、フリーマンの意見もあったらしく、すごく周りに意見を聞く監督だったらしい。
それを93年に、オハイオの田舎町に数ヶ月泊まり込みで撮影して、市民の中から囚人のオーディションをやったりもしたそう。
予算が潤沢なんだな〜と思うのは、ほぼ順撮りで撮影していて、役者の関係性の積み重ねによって、シーンにおける結びつきも作られたというところがあるらしい。
実際、監督もフリーマンも「3度の面接」が一番お気に入りのシーンで、嘘のない変化が描けたみたい。

裏話として、屋根は実際に40度で死ぬほど重いモップを動かしていたので、ほんとに心待ちにしていたビールだったこととか、地元の小川にパイプを埋めて脱出シーンを撮影したけど、科学者は「家畜の糞尿など健康に危害があるのでやめておけ」と言っていたこととか、今だったら問題になりかねないスパルタな現場だったこともわかった。
あと、監視役は脚本が「嫌なやつ」すぎて役作りが上手くできなかったけど、「所長や監視が嫌なやつなのは、アンディの回想だからだ」という説明を受けて納得して取り組めたらしい。

そして、94年の試写で劇場公開げ決定するも、集客に困難して興行が伸びず…。
監督曰く「警備員とか労働者層しか見なかった」とのことだけど、長い映画だし刑務所の物語だし、冷たくて暗い印象で、しかも宗教くさくて人気俳優もいない作品なので、それも納得する部分があった。スピルバーグなどSFX作品が全盛の時代に逆行しすぎていたらしい。
オスカーで7部門候補になったのに結果的にヒットせず、『Shawshank Redemption』というわかりづらいタイトルも覚えてもらえなかったらしく、フリーマンは「なんで原作の”リタヘイワースと”を抜いてしまったんだ!」と言っていた笑。

でもそこから面白いのが、レンタルビデオで大人気になったということ。「誰かに勧めたくなる作品」として口コミで人気になって、今までほとんどのファンがテレビやビデオで見ているという珍しい作品。95年のレンタル1位だったそう。
Imdbでも常にトップ争いをしているそうで、今見ても『ゴッドファーザー』『ダークナイト』『シンドラーのリスト』などを差し置いて1位になっていた。実際、キャプラの作品とか『市民ケーン』も興行は振るわなかったのにずっと愛されている作品で、まるで映画における展開と同じような逆転を遂げている「粘り勝ち」。

「希望は永遠」というメッセージが刺さって、実際に多くの自殺志願者や離婚や病気の経験者に希望を与えたらしい。音楽などアートに希望を求めるシーンのファンも多く、長く続く雨の中に輝く「虹」のようなものだと感じた。絵画的な描写も多いと思う。吉田恵輔監督が「9割の絶望がないと1割の希望に気づけない」と言っていたのと繋がるな〜と思う。
実際自分も、成し遂げられてないとか課題がたくさんあるけれど、いつかそれを達成できるはずだという根拠のない希望を持っているから毎日生きていられるんだと思う。今見るとモノローグがずいぶん多かったりするけど、だからこそ映画初心者も含めて誰しもが力をもらえる名作になったんだろうな。


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何度も観ている(字幕なしでも台詞を大体覚えている)けど、好きな映画くらいちゃんと語れないとだめだな〜と思ってやっと原作読んだ。

(映画)
この映画観てから映画好きになった。
原体験として美化されている気はするけど、好きなシーン多すぎてそこそこ好きな映画3~4本分くらいの密度とインパクトがある。ビールとモーツァルトは特に好き。

"逆境でも希望を捨てるな"的な曖昧な教訓だったら実践できないだろうだけど、自分が相手にとって利益のある存在になることでものとかつながりを手に入れる姿勢とか、幸福実現のためなら形式にはとらわれない姿勢とか、目標を見据えた上での忍耐とかは、獄中ではない環境でも参考にできる。いくら頭を鍛えても使わないと意味ないと思った。

ただの飾りと見せかけていた、Rita Hayworth→Marilyn Monroe→Raquel Welchのポスターを、時の流れを示すと同時に、ストーリーの鍵にもしてしまう巧さといい、脚本も映像も大好き。
いつかこれを超える5.0を付けるような映画に出会えるといいなー。

(小説)
プロットは想像以上に映画通り、かなり原作に忠実な映画だったのね。
屋上のビール、映画鑑賞とか好きなシーンも描かれている(モーツァルトとかラストの海は映画の脚色)。でもトミーやノートンは死なないし、そもそも看守や署長が変わらないし、やっぱりコンパクトに楽しませる映画の演出の努力が凄い。小説ほど緻密に作るのは時間的に不可能だけど、それでも違和感なく楽しませる工夫がされていたからツッコミを入れる様な余地はない。

無謀な脱走計画の成功に至る過程と方法の描写は、伏線も込みでかなり丁寧で緻密。すきま風、地質学専攻、砂煙、銀行勤務...すべて脱走の伏線になっていてスティーブン・キングの賢さが伝わる。
レッドの一人称語りも生かされていて、その結果が小説として完成しているというメタな作りもStand by meっぽくてよかった。

刑務所は社会の縮図って書いてたけど、一般社会でも強い意志で生きている人は少ない気がして、自分も命令されないと動けないことはあるので、「刑務所の心地よさ」に安住せずに本当の希望を追い求めたところが、Andyのかっこよさであり作者が伝えたいことであるのかなーと感じた。

一番テンション上がったのは最後のポスターがリンダ・ロンシュタットだったこと。It's so easyをかけられるようなシーンはどこにもないけど。


(町山さんの解説を聞いて)
ホラーマニアの監督(脚本)がホラー作家の"非"ホラー作品を映画化したという珍しさ。監督はハンガリーの難民に生まれたという自身の境遇から「脱出」へのこだわりが強い。
ラストにしろモーツァルトにしろ、思い付きとか不確定要素が映画にとって非常に大切とわかる。ジャケにもなってる有名なシーンは「暴力脱獄」のオマージュで、神に語りかけるキリストの再現。刑務所も人生も考え方次第で楽しめるし、音楽や映画はなくても生きられるけどなかったらつまらない。それぞれが人生を突破するための"穴"を掘れ(好きなものを突き詰めろ)、というメッセージ。
一般の映画ファンに人気投票をすると世界中で首位をとるらしい。ラストの楽園は現実か死後かという論争もあるらしいけどそんなことどうでもいいくらいの名作。

(哲学書を読んでこの映画を連想したので追記)
ソクラテスの考え方で言うと、人間のアレテー(よさ)は「正しく倫理的であること」であって、(たとえ法の運用が不正であっても)刑から逃れることは、大恩を受けて生きてきた国法を裏切ることになるので「不正」になるらしい。実際ソクラテスは理不尽な死刑を受け入れた。アンディが脱走したときに感じた違和感はこれなのかも、君も不正に染まっちゃったのかっていうちょっとした残念感。でも刑を受け入れて刑期を終えるだけだったらあの気持ち良さはないんだろうと思う、不正が許されるだけの不正を受けたと思っているから。良い(幸福な)人生か正しい人生か…でも生きてなかったらよりよく生きることもできないし、やっぱり不条理を達観して抵抗せずに死ぬのはおかしいと思っちゃうな…
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