三畳

フィッシャー・キングの三畳のレビュー・感想・評価

フィッシャー・キング(1991年製作の映画)
4.8
今までテリーギリアムには悪夢ポップな美術とブラックユーモアという印象しかなくてあと一歩好きになれなかったのですが今作で大好きになりました。

ロビンウィリアムズ演じるホームレスは元大学教授で、無差別殺人犯に妻を殺されたショックで頭がおかしくなってしまった!
そのイカれた演技が悲しい。
悲しいんだけどコミカルで暗くさせない。
でもそれってやっぱ悲しい。
だけどほとんどそんな悲しい過去を忘れさせたまま、ドタバタおもしろ劇は続く。

妄想とだけ言えば楽しげだけど、実在しない騎士に追われる幻覚が見えたり、統合失調症っていうのかな。
自分はアーサー王に選ばれた勇者で、妖精さんが君を選んだと言ってる!と真顔で訴えてくるような、ホームレス連中は、優しくて愉快だけど、怖い。
昔の話をしたら、道に寝転がって叫び、聞くのを拒否した時、なんて悲しい!と私が胸を締め付けられた瞬間に、隣で見てた家族はあははと笑ってた。

ホームレスが恋するヒロインがまた素敵。この女の人きれいだけど、歩くのもヘタ、回転扉に入るのもヘタ、食べるのもヘタ、ど近眼なのか字を書くとき顔を机まで持っていくし本やビデオを取ろうとすると必ず落とす!この人の挙動見たさだけでもまた見る価値あります。

主人公の仲介で意外にもトントン拍子で恋は進み、その頃にはホームレスだったことさえ忘れかけ、知的な会話で一瞬本来の大学教授である自分を取り戻しかけてたような気がする。だからこそその後の展開がめちゃくちゃ悲しい。トラウマの克服はそんな簡単なことではない。

前妻を殺される生々しいシーンが、冒頭に説明として入るのではなく、フラッシュバックとして後半順調に行きかけた頃に描かれるのが辛いし巧いな。

この映画の主人公はホームレス男ではなくて、元ラジオパーソナリティの現ヒモ男。彼は彼で、かつてラジオでの過激なジョークで無差別殺人事件を煽ってしまった事実に罪悪感を抱えながらも、どうすれば救われるのかわからずなんもしてない。

そんなある日、事件の被害者でもあるホームレス男に命を救われてしまい、はじめは義理で、次第にたぶん友情でもって一生懸命体を張って協力することで、主人公の傷も僅かずつ癒えていくというすごくいい話。
かつてはタワマン住まいでいけすかないリッチな芸人、人を傷つけて笑いを取る芸風(毒舌キャラ)だったのが、自分がホームレスみたいに象徴的に服が破けてから、社会的弱者や変わった人の話を聞くことで何かが変わったのかも。

主人公を養ってた彼女は論理的で色々的を射ている。
人間を神に似せて作ったなんてのは嘘、人間は悪魔。だけど女は神の一部、子を産むのは創造だから。だから聖人みたいな男と寝ても退屈。結婚って神と悪魔が一緒に仲良く暮らすってこと。って例えが面白かっただけに、後半はギャップが生まれるいいキャラだなぁ。
同じカフェにいても出会わない2人もいれば、地球の裏側にいても結ばれる2人もいる。

駅のコンコースでダンスするシーン、今となってはありきたりだけど惚れ直すようなテリーギリアム質感のマジック演出、大好き。外国の駅に差し込む夕日ってなぜあんなにゴールドに輝くんだろ。
あと、友達に協力するためにヒロインに電話をかけるとき前職ラジオパーソナリティスキルを活かしてたところ。
オカマの歌手ホームレスが職場押しかけて歌うギャグシーンだけどビデオがあれば人生はバラ色って曲が何気に良い。
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