ブタブタ

乱歩地獄のブタブタのレビュー・感想・評価

乱歩地獄(2005年製作の映画)
4.0
『芋虫』
「虫の手足ってまた生えるんだ…」
戦場で四肢を失った傷痍軍人の夫・須永中尉をいたぶる妻・時子を『屋根裏の散歩者』の様に観察しているのは何故か乱歩の本名〝平井太郎〟の名を持つ男(松田龍平)
更に彼らを離れた隠れ家から監視するのは名探偵・明智小五郎(浅野忠信)とその助手である美少年・小林芳雄(韓英恵)。
小林君が持ってきた新聞には【帝都壊滅】の文字が踊る。
関東大震災のカタストロフ。
明智が見つめる先の海の上に浮かぶ《孤島》には大富豪・菰田源三郎によって大量の美術品が運び込まれ、大規模な建設工事が昼夜問わず行われており《この世の楽園》が築かれつつあるという。
しかし菰田源三郎は既に死亡している筈だと明智は語る…
「怪人二十面相、何処に行こうと云うのだ。二匹の虫を引き連れて…」
二匹の《芋虫》と共に《孤島》へ向かう平井太郎=怪人二十面相。
明智と二十面相の最終対決『パノラマ島綺譚』の幕が上がる…

石井輝男監督は『江戸川乱歩全集:恐怖・畸形人間』で『孤島の鬼』と『パノラマ島綺譚』のリミックスを、そして『盲獣VS一寸法師』では両者のマッシュアップをやったけど『乱歩地獄』の一篇『芋虫』は短編ながら何と『芋虫』に加えて『怪人二十面相』と更に『パノラマ島綺譚』の併せ技をやってしまう。
江戸川乱歩の膨大な作品の中から幾つかをピックアップし、組み合わせると云う手法は特に映像化作品において一種のテクスチャーとなっている(か?)
『芋虫』のラスト、《孤島》に運び込まれる二匹の《芋虫》は『恐怖・畸形人間』の人工的に造られた不具者・畸形者達を思わせるし、本作『乱歩地獄』の四篇は実は全てパノラマ島で繰り広げられてる人工空間やヴァーチャル空間での悪夢の様にも見える。

乱歩好きで知られる大槻ケンヂ氏は「乱歩世界って基本バカ、(映像化は)変に芸術とかそっち行って失敗する」と語ってたけどそう思う。
乱歩って今で言う「バカミス」の先駆者でもあると思う。
それからケンヂ氏は一番好きな作品として『パノラマ島綺譚』を上げてて「CGとかどんなに技術が進んでもパノラマ島綺譚の映像化だけは絶対不可能」とも語ってた。
『乱歩地獄』は乱歩作品の中でも特に《映像化不可能作品》四篇をチョイスして映像化って触れ込みだけど、この四篇に入ってない『パノラマ島綺譚』の直接的な映像化ではない映像化でもある様な気がする。
オープニングの『火星の運河』の異世界や『鏡地獄』の鏡という二次元を扉として異世界へ行ってしまう男。
そしてラストの『虫』の目に見えない細菌という《虫》に侵され狂気世界に行ってしまう男。
それら全て含めて目には見えない脳内世界の《パノラマ島》を映像ではなく描いてる様で(小説で言えば《行間》というやつ)『乱歩地獄』はオムニバスというスタイルを取りながら一本の映画であり行間を読ませる方式で映像化せずに映像化したパノラマ島綺譚なのでは、とか思ったのでした。

本作も実相寺昭雄監督の乱歩二部作と同様、テアトル新宿で見ました。
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