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サクリファイスのKKMXのレビュー・感想・評価

サクリファイス(1986年製作の映画)
4.8
 俺の憧れソビエト生まれのチェインソー、アートバカ一代ことタルコフスキー先生の遺作。スウェーデンでベル井のスタッフとともに制作された作品だそうです。
 本作はタルちゃん版『野いちご』と言えなくもないかも。虚無感に苛まれる老人が異界の力に導かれ、一晩で大きな成長を遂げるというプロットはよく似てます。個人の癒しか、次世代の救済かという違いはありますが。こういう超越スケール感が難解な所以なんだよな多分…

 タルちゃんを鑑賞するのが2本目なので、だいぶ鑑賞する構えができていたせいか、割とくっきりはっきり伝わりました。相変わらず言語化は難易度高いですが、直観的にはかなりスカッとキましたね!


 タル作品にはおそらく前提となる構えというか枠が存在します。

 タルちゃんはおそらく明確な二項対立の価値観を持っていたと思います。『ノスタルジア』からの言葉では、『健全な人vs病める人』、早稲田松竹に展示されてきた記事によれば『物質vs精神』。

 前者すなわち『健全で物質主義の人たち』は、世界のマジョリティで力を持っていて人生の意味などは考えず上っ面を整えることに終始し、世界の多層性を意識せずに目に見えることだけを信じているため、一見幸せだけど一皮剥けば空虚。信仰心がないので傲慢。そんなだから理想もなく薄い現実対応ばかりしているため、方向性を失って弾圧したり戦争を起こしたりするので、タル的価値観からすればカスどもであります。健全ってのはシニカルな反語です。ホントはこっちが病んでいる。

 後者すなわち『病んでいて精神主義な人たち』は世界のマイノリティで狂人扱い病人扱いされ人生の意味に苦悩し本質を見つめ、世界は目に見える意識だけの世界では成り立ってはいないことを直観しており異界に開かれているため、クライシスはあるが乗り越えれば内的に満たされた人生を送る。信仰心があるので自分を超えたものへの想像力を持てる。そのため理想をしっかり持っており、方向性を失うことなく世界の進化を本気で考えることができるため、タル的価値観からすればザ・正義であります。病んでるってのはモチロン反語で、ホントは健全。タルは自分がこっち側の代表くらいに考えているのでしょう。

 この枠を意識すれば、割と解りやすく観ることができるのではないかと思います。
 もちろん、人間はその両面持ってますが、だいたいどっちかの面が優位になっています。ただ、タル自身からは「俺は物質人にならねぇ」くらいの意志が伝わってきますが…
 で、この両極が統合されることが、有名な『1+1=1』なのではないか、と考えています。


 ちなみに『ノスタルジア』は病める精神人の側から描かれた作品(主人公が自分のファーストネームだもんね)ですが、本作は健全な物質人の側から描かれた作品でした。なので、主人公アレキサンデルは物質→精神という転回・成長が描かれます。それゆえ本作はノスタルジアよりキャッチーかもしれません。ノスタルジアはある種精神人のグチ映画みたいな側面も感じましたし。


 え〜、スーパー長文の前置きが終わりまして、やっと感想です!
 とにかくスパーンと入ってきて、ズギュュュュン!と俺の内部でスパークしました!前半は物質人がゴタクをガタガタガタガタ並べやがってマジでクソだな…くらいの退屈さでしたが、第三次世界大戦が勃発したあたりから映画がドライヴ!物質と精神の橋渡しをする郵便配達人すなわちメッセンジャーであるオットーのキャラが最高!前半のゴタクシーンでもオットーだけは栄養素のあることを言っていたはず、覚えていないが!
 魔女マリア(物質人に紛れた精神人)とセクロスすることで世界が救われるという設定は左脳では理解できないが右脳では理解できた!しかしマリアがイマイチ好みではないので「ノスタルジアのパツキン美女にマリアやってほしかったな…」とはじめは物質人的感想を持ったものの、空中セクロスシーンで再度スパーク!こりゃ世界は救われるわ〜、セカイ系万歳!天気の子!
 見事精神人に再生したアレキサンデルはやはり犠牲を支払ったか…それは彼が火をつけたものか?それとも彼自身の人生か?それでもラストはタルちゃんのテーマ『1+1=1』を感じさせるフィニッシュ!我々人間からするとハッピーかバッドかわからないけど火の鳥から見れば絶対大団円!そう直観した瞬間またスパーク!やっぱり信仰心というか敬虔さって大事ね…と感じました。


 とにかく超面白かったけど、いささか長く、ノスタルジアのパツキンみたいな俺好みの美女が出演していないため、俺はノスタルジアの方が今の所僅差で好きです。
(追記:その後評価が変わり、本作の方が好きになった!)

 しかし、タルちゃんの作品はドキドキするようなイカれたガーエー、D.I.Gのピストルでした。こんなの創り続ければ命削って早死にするわ。観る方もすげえ力使うので、脳がすっかり疲弊しました。

 なので、しばらくはタルちゃんを控えて再び寅ちゃんを観ることにします。偉大なるタルコフスキーよ永遠なれ!シェケナ!
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