Iri17

地獄の黙示録・特別完全版のIri17のレビュー・感想・評価

地獄の黙示録・特別完全版(2001年製作の映画)
4.9
言葉が出ない圧巻の作品だ。戦争の狂気と醜さを躊躇いなく描いている作品は多いが、コッポラ爺さんの天才的な演出の才のおかげで他の追随を許さない唯一無二の戦争映画であると言える。

前半のサーフィンをするために村をナパームで焼き払うロバート・デュバル演じる将校の「朝のナパームの匂いは格別だ」というセリフが、戦争の狂気と快楽に取り憑かれた人間を象徴している。こう言ったセリフからも前半はどちらかと言えばシニカルなコメディのように思われる。設定や展開は違うが、雰囲気は『フルメタル・ジャケット』のようである。ところが後半、マーロン・ブランド演じるクルツ大佐やデニス・ホッパーの報道ジャーナリストが出てきてからはずっしりと映画が重くなる。画が暗くなり、派手なアクションは少なくなる。そこが他の戦争映画とは違うなと感じた部分だ。ブランドの怪演とホッパーのいつもの変態っぷりが光り、長ゼリフが続くがこれがまた素晴らしく、ゴダールのようだ。この映画は戦争映画でありながら、とても詩的な映画なのだ。主人公の思想が全編通して語られる点からもすごくゴダール的と言えるのではないか。

この完全版で追加されたフランス人入植者のシーンもすごいゴダール的だ。フランス人が急にうんちく…いや、ご高説を垂れ始めるから。「ベトコンはアメリカが作った」というセリフにアメリカ兵たちがビックリするシーンがあるが、何を驚いてんだ!って感じ。ビンラディンのタリバンやアルカイダの基盤となったムジャーヒディーンもパナマのノリエガ政権もみんなCIAが支援して作り出したという経緯がある。またアメリカはCIAを使って思う通りにならないキューバやイランやニカラグアにちょっかいを出しては嫌われ、嫌われては「あいつらやべー!」と野蛮なテロ国家の烙印を押してイメージを下げるというジャイアンとスネ夫を足して2で割ったような行為を繰り返してきたわけだが、この時代のアメリカ人はそんな事も知らないのか。まあそれはさておきこのシーンは長ったらしく公然の事実を衝撃の真実のように描いてるのでカットされて当然だと思う。

偶然か狙ったか知らないがこの映画の主演のマーティン・シーンの息子チャーリー・シーンがオリバー・ストーンのベトナム戦争映画『プラトーン』の主演というのは面白い。また、まだ若いヒョロヒョロのローレンス・フィッシュバーンが出ているのも面白かった。

The Doorsの『The End』やワーグナーの『ワルキューレの騎行』など音楽を非常に印象的に使ってる点も素晴らしかった、

賛否両論あると思うが、この映画は他の戦争映画とは一線を画す素晴らしいであると僕は思う。
Iri17

Iri17