あおや

地獄の黙示録・特別完全版のあおやのレビュー・感想・評価

地獄の黙示録・特別完全版(2001年製作の映画)
4.2
ベトナム戦争下、アメリカ陸軍のウィラード大尉は軍上層部から特殊任務を受ける。それは、アメリカ軍人であるにも関わらず、カンボジア奥地にて軍規を無視し、自らの王国を築くカーツ大佐の暗殺指令だった。偵察に送られた兵士は皆消息不明。軍人として完璧な経歴を持つ大佐が、何故現地人を率い武装化しているのか。ウィラードは 4人の部下と共に、哨戒艇でヌン川を遡っていく。

ワーグナー「ワルキューレの騎行」が流れる空襲シーンがいわずもがな印象的であるが、これでもかとベトナム戦争のカオスぶりを見せつけられるような映画である。戦争という命のやりとりへの恐怖。そしてカーツ大佐という未知への恐怖。こうした“恐怖”が途切れることなく、作品は終始不穏な空気感を纏う。そして兵士目線から、戦争に対する不安、恐怖心を徹底して描いている。

“戦争は哀れみが多々必要だが、冷酷な行動も多々必要だ”

この言葉の通り、戦争下の兵士達はこの相反する感情のバランスを必死にとろうとする。戦争における正義とは、良心とは、正しい振る舞いとはなんなのか。そこに正解などない。だからこそ兵士には迷いが生まれる。

身勝手に銃を乱射した後、息がある相手を病院に運ぼうとする。
若い兵士に人の殺し方を教え、戦闘機にfuckと書くのは禁ずる。

それらの行為は矛盾している。それらの矛盾は“欺瞞”である。大佐は、そうした迷い・欺瞞がなく、戦いに徹する強い意志こそが最強のものだと語る。
しかし、凄惨な戦争に晒され続け、もはや戦争を達観さえしている大佐でさえも、戦争に対して最後にいきついたところは“恐怖”なのであろうか。
結末部分は、少々消化しきれないところもあるが、とにかく戦争というものの異常性、カオスぶりを遺憾なく描いた衝撃作である。

『地獄の黙示録』
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