みほみほ

セント・オブ・ウーマン/夢の香りのみほみほのレビュー・感想・評価

4.9
ずっと気になっていた本作を、28回目の誕生日に鑑賞。実は恋愛ものだと勘違いしており少し敬遠していた節もあったのだが、まさかアル・パチーノが盲目だとも知らずに本作に触れ衝撃を受けてしまった。
言葉にするのがとても難しい映画なのだが、人を徹底的に考えさせ、最後には最高潮に気持ち良くしてくれ、良くなった姿をラストシーンで拝める。そんな 映画として最も高揚感を感じさせてくれるような素晴らしい作品であった。

ボロボロと涙が溢れるシーンもあったが、胸がいっぱいになって、じわりじわりと滲み出すような涙も多くあった。

アル・パチーノの顔が苦手だった私だが、声に惚れ込んでからはあら不思議。気にならなくなってむしろ魅力的に思えて、声の演技、目の動き、その他全てに魅了されて静かに見入ってしまった。

悪い表現で言ってしまえば、最初は盲目の手に負えない厄介な頑固親父であったアル・パチーノだが、青年と触れていくうちに 友情にも似た何かが芽生え、信頼し、心から青年を思う姿や、生きる事へ前向きになっていく姿が良かった。

自分の弱みを曝け出し ぶつかる姿に涙が止まらなかった。そこで見た青年の涙にも泣かされた。何度も何度も泣かされた。

青年の真っ直ぐさと、揺れ動かない信念は人として勿論素晴らしいけど、良い人は排除されてしまう悪い習慣に立ち向かうアル・パチーノの法廷シーン(法廷ではないが)が素晴らしかった。唸った。
一人で観ていた事もあり、よくやった!と合いの手で手を叩いたり、笑いが込み上げたり 思わず声が出てしまう興奮状態。

あの頑固親父を変えた、いや、根負けにも近い気付きをそっと与えた青年の存在がいかに素晴らしいかも分かった。

金持ちの息子の困り果てた表情にはクッソ笑ったが、リーダー格の鼻くそみたいな奴の末路がこの上なく素晴らしいよね。あのクソガキ感を出せる俳優も素晴らしい。

最初は この役のアル・パチーノは女好きだなぁくらいに呑気に笑っていたが、盲目になってからの苦しみと、過去の経歴に深い誇りを持つ人にとって、身体の機能を奪われてどれだけ苦しんできたかは 親戚の胸ぐらを掴むシーンで想像ついたし、そこでまた泣かされたし、女に逃げるといったら表現は汚いけど、そこに楽しみを見出し生きる希望としたのだと段々分かってきてからは 迂闊に笑えなくなってしまった。

人にとって心を保つ事って、難しい。
五体満足だろうが何だろうが苦しむのだから、なにかを一つでも背負った時、そこからは いばらの道が待っていて、生きる意味を見失う回数も尋常じゃないと思う。
殻に籠もれば最初のように怒鳴り、わめく厄介な親父。あれでは誰も近づきたくなくなり、孤独になっていく。嫌われる事で存在を示す。心は苦しむ。その悪循環。

人との出逢いは時に人生を変えるとよく言うが、青年にとっても主人公にとっても、人生が変わったなんてたとえそれが映画でも素晴らしい。

胸ぐらを掴むシーンで、自分の過去の過ちであったとしても、盲目というハンデを背負う元軍人を前に挑発を繰り返す親戚も嫌な奴だなとも思ったが、冷静に考えると腐っていたのはアル・パチーノの方であったし、厄介だとも思った。奥さんを悪く言われたら頭に来るのが普通。誰にとっても最悪な時間であった事には違いない。

でもあのシーンは手に取るように アル・パチーノの心の無情さが分かったので苦しかった。いや〜泣いた。

数年に一度出逢うかどうかの名作に出逢えたような気がする。

アル・パチーノの重厚感のある深い声に惚れたし、また他の映画も観てみたくなった。すっごく良かった。誕生日に観れてよかった。
みほみほ

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