しゆ

ソーシャル・ネットワークのしゆのレビュー・感想・評価

ソーシャル・ネットワーク(2010年製作の映画)
4.9
前知識はFacebookがモチーフなのとデヴィット・フィンチャー作品にしてはここの平均スコアが控え目だなぁってくらい。めちゃくちゃ良かったし、今の自分に刺さるものがあってこれは高評価をつけずにはいられない。
世界最大のユーザー数を誇るSNS、Facebookを生み出したきっかけは文字通り小さなナード(オタク)の憂さ晴らしからっていうのが泥臭くて夢がある。同時に、活動領域が広まりつつあるとはいえ才能ある若者に50万ドルを出資できる思い切った周囲の人間とそれらを巻き込んでいけるのが成功者が生まれやすいアメリカらしさがあって、同じことが起きても日本では埋もれてしまうだろうなと思った。GoogleやAppleやAmazonやDisneyみたく始まりのガレージもないし。
大学のサーバーをハッキングして寮の女の子の写真を格付けする''Facemash''サイトを開設する馬鹿げた始まり方からワクワクする。地味寄りな内容ではありながら起伏もそれなりにあって誰も彼も早口でまくし立てるおかげであっという間に時間が過ぎるのが特徴。構成はハーバード大学時代と裁判での会話劇の双方の時系列を行ったり来たりしてFacebookの繰り返される発展と成功を視聴者に追体験させることでラストの余韻を一層引き立たせる効果がある。このあたりデヴィット・フィンチャーの秀逸な魅せ方が発揮されてるけど自分は『ファイト・クラブ』や『セブン』を先に観ていたからもっとヴァイオレンスで大人向けなテイストで作るイメージがあって、本作は彼だと知らなければ最後まで気づかなかった自信がある。おかげでジャンルに縛られない彼の卓越した才能が垣間見えた。
脚本のアーロン・ソーキンがマーク本人に取材を断られて法廷の著書を原作にしたことからフィクションの描写がほとんどらしく、史実をもとにしたサクセスストーリーというよりもヒューマンドラマが正しい。結果的にそれが評価されてアカデミー脚色賞と編集賞を受賞してる。ジェシー・アイゼンバーグの演じるナヨナヨした男が苦手で(たまたまそういう役柄に抜擢されるだけ?)あまり良い印象がなかったけど個人的評価はひっくり返った。最近意図せず出演作を観るアンドリュー・ガーフィールドも『アメイジング・スパイダーマン』しか知らなかったけど(でも公開年的にはこっちが先)ここでも素晴らしい演技だった。
マークが元カノとの確執を深めるたびにThe Facebookを拡大させていくのは、彼に感情移入してる立場としてはなんだか小気味良かった。これを肝が小さい人間ととるか、人間臭くてバイタリティーのある人物と捉えるかは観てる人次第な部分がある。もっと言えばエドゥアルドは途中から仲間外れにされて可哀想とも、最初に意気投合して資金を出しただけとも受け止めることができて、誰に感情移入するかで登場人物たちの好きか嫌いかもハッキリ分かれるのが本作の味わい深いところ。
マークとエドゥアルドの関係にヒビが入ったのはお金が絡んだからというより、もともとお互いに相容れないものが心の奥底にあってショーンとの交流等を通じて密接になるにつれてそれが浮き彫りになっていったのが原因かなと。ありきたりな言葉で言うなら方向性の違いで誰が悪いとは決めつけられないからこそ切ない。Appleのジョブズもエゴの塊で有名だし、一大産業を生み出すにはマークのあれくらいもっと先を見据えて我を貫き通す力が必要なのかも。
彼が行き着いた先は友達も恋人も影響を受けた実業家も側におらず、莫大な財産に囲まれた最年少の億万長者の称号のみ。結局人恋しくなってしまうタイトルの『ソーシャルネットワーク』(The Facebookが途中からTheをとったように、邦題も原題からの転換でTheが抜けるのは偶然だけど興味深い)に繋がりを求める姿は最後のマークそのもの。エンドロールにビートルズのBaby, You're a Rich Manを流すセンスも良くて、字幕には書かれなかったけど金持ちになった君は本当に幸せなの?と言わんばかりに皮肉るフレーズが彼のその後を色々と想像させて、寂しくも微笑ましくもあり考えさせられる。ショーンが話してたヴィクトリア・シークレットの教訓(?)も今となっては他愛のない単なる雑談、で流せない。
どんでん返しモノでもないのにここまで鑑賞後すぐにまた最初から観たくなった作品は他にはない。★4.9以上は滅多につける機会がないだろうなと思ってたけど、まさかマークもしてないなんの気無しに観た映画でつけただけにそういう意味でも感動が大きい。この幸運に感謝したい。

「レコード会社側が勝訴したはずだ」「法廷ではね 今CDは売れてるか?」
しゆ

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