レインウォッチャー

バンデットQのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

バンデットQ(1981年製作の映画)
4.0
不条理不細工不整合を愛せ。

奇才テリー・ギリアムが「未来世紀ブラジル」前夜に作った子供向けファンタジー映画で、今作のヒットがその後のキャリアの礎にもなっているらしい。
作中においてもところどころに「フィッシャーキング」の馬だ!とか「Dr.パルナサスの鏡」のテントだ!とか、その後の作品でも使われるモチーフが見つかり、ファン目線でもけっこう楽しめる。

童心がノーフィルターでまろび出る作家のギリアム氏だけれど、意外と子供そのものが主人公の作品は少ない。これと、あとは「ローズ・イン・タイドランド」(愛してる)くらいだろうか?
今作は、歴史好きの少年がおっさん小人たちと様々な時代・国を訪れ、(ナポレオンやロビンフッドをディスりながら)冒険を繰り広げるという、いわば絵面のガチャガチャした「ジャイアント・ピーチ」みたいなお話。

旅する世界はサーカスやフリークス、動物への愛情に満ちていて、これまたどの作品でも一貫しているポイント。中でもとにかく卑俗なおっさんに対する執着が人並み外れている。すぐに煤や痘痕で汚し、歯を抜く。
フェリーニやクストリッツァにもどこかで通ずるところがあるのかなと思うのだけれど、「俗世的な猥雑さ=人間らしさ」とする肯定がずっとある人なのだろう。

猥雑、という概念は、もともとは庶民の生活様式自体を指すものであり、上流とされる人々が自分たちのテリトリーを守るために作った柵のようなもの。
このあたりは氏がイギリスというゴリゴリの階級社会出身であることも関係しているのかもしれない。

物語の中で、象徴的な存在として神と敵対する悪魔が登場するのだけれど、彼は機械やコンピュータといった現代文明を司っていて、「神は無駄なものばかり作っている」と現世や生物それ自体が抱える自然な非合理性を否定する。

ここでおもしろいのは主人公の両親で、子供に気を配らない代わりにテレビや最新の家電製品といった「文明の利器」(=悪魔の発明とでも言いたいのか)に惑溺する愚かな存在として嫌味たっぷりに描写されている。
このあたりに、矢鱈手間のかかる・ガチャガチャした・非合理性の塊の映画ばっかり作り続けているギリアムさんの変わらぬ矜持の源泉がある気がするのだ。

それに現代でもタブレットやスマホに子守を頼ることの是非、みたいな問題提起はいまだに成り立つわけで、結局のところ人間はこの40年間進歩しておらず、神と悪魔の関係はどこかで癒着したまんま続いているのかもしれない。

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字幕がえらくしんどいな。。と思ったら戸田のなっちゃんだった。
「beans into peas」を「豆をマメに」と訳したりしていて、いやそりゃあそうなんだけど逆に気になって止まるよ!という、全盛期のクオリティを見た。

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原題は「Time Bandits(=時間泥棒)」。邦題のQがすっかり意図不明だけれど、なぜかビートルズのジョージ・ハリスンが出資していて主題歌までごきげんに歌っている…てのがきっと一番のQuestionやで。