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青いパパイヤの香りのsのネタバレレビュー・内容・結末

青いパパイヤの香り(1993年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ベトナムの夜とドビュッシーの音楽が合うなんて誰が気づいたのだろう。

風の吹き抜ける家屋。格子越しの視線。みずみずしい料理、美しい壺。汗で張りついた髪と濡れた葉の青さ。
パパイヤの雫に見惚れていたかつての少女は、ひそかに慕う男のために料理をつくり、パパイヤの粒を桶に落とす。しずかに見つめる母のような絵が映り、ムイはお腹に命を宿す。劇中ほとんど口をきかなかったムイがぽつりぽつりと朗読するその声に、背後の仏像までもがおだやかに聞き惚れている。美しい映画には綺麗なハッピーエンドがつきものだ。


前半の少女時代は、生活の細部に宿る美しさに見惚れた。ムイの作業着はかわいらしく、大きな甕は愛嬌ある曲線をしている。竹ざるへ注がれる米は見ているだけでお腹がすいた。字幕が少なく穏やかな進行の物語は、この細部を見せたいがためのような気さえしてくる。

後半は人間描写の細やかさが際立っていた。役者の変わったムイは、それでもあの少女から成長したのだという説得力のある仕草で髪を撫でつける。ムイは質素な服を着て、良家のシンデレラが落としていったヒールへ足を通しかけ、やめる。
華やかな婚約者はピアノを弾くクェンを引っぱって食事へ誘う。気を引くように壺をおき、演奏中のクェンの髪を撫でまわす。
一方でムイはただ黙ってクェンに寄り添った。仏像を拭き、靴を磨き、生活に則した服でクェンに尽くした。
どちらが良いということではなく、クェンにはムイが合っていたのだろう。クェンとムイの会話シーンを一度も映さずにこのことを納得させるのは並大抵のことではない。

映像は文句なしに美しかった。クェンの婚約者が部屋の物を壊してまわる鮮やかな色彩と、帰宅したクェンが部屋を見わたす冷めた色彩。同じ部屋が色温度でこうも違って映るものかと感心した。

欲を言えばもっと家の外が観たかったのと、やけに不穏な音楽が肌に合わなかった。この作風ならいっそ音楽を消して環境音だけで勝負しても良かったと思う。


ベトナムと聞いてイメージする喧騒とはかけ離れたしずかな暮らし。蛙の濡れた皮膚からは大気の湿っぽさが、蜥蜴の日向ぼっこからは日の暖かさが伝わってくる。ベトナムの田舎村へ旅してみたくなった。
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