Inagaquilala

青いパパイヤの香りのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

青いパパイヤの香り(1993年製作の映画)
4.2
最近観た、同じくベトナムを舞台にした作品「草原に黄色い花を見つける」に触発され、ひさしぶりに再観賞。なんだろう、この瑞々しさは。とにかく監督のトラン・アン・ユンのつくりだした映像世界にどっぷりと引き込まれる。光や水や植物などを効果的に映像の中に織り込みながら、ひとりの少女の人生を淡々と描いていく。とくにドラマチックな展開があるわけでもないのだが、皮膚に染み込んでくるようなしっとりとした映像は、やはりトラン・アン・ユン独自のものなのだろう。乾いた世界である村上春樹の小説とはやはりマッチしなかったのもうなずける。

トラン・アン・ユン監督は幼い頃にフランスに移住して、彼の地で映画を学んだベトナム人だ。「草原に黄色い花を見つける」のビクター・ブー監督も、アメリカ西海岸生まれのベトナム人。どちらも異国で育って、故国ベトナムを舞台にして作品を撮っている。実は、両者の作品に同じものが流れていると感じたのは、そういった出自にあるのかもしれない。ふたりともベトナムの自然は美しく豊かに描いているのだが、直接「戦争」に関する言及はほとんどない。それが少々物足りなくもあるのだが。

全編パリ郊外に建てたセットの中で撮った作品なので、これはもう夢の世界の物語なのかもしれないが、いまみても少しも色褪せることのないディーテールの描写は素晴らしいのひと言。元々はドキュメンタリストであったトラン・アン・ユン監督のクリアな目で描いた人間ドラマも妙に心にフィットする。間違いなく名作であることに変わりはない。
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