『奇傑パンチョ』は、1934年に製作・公開されたアメリカ合衆国の映画である。原題Viva Villa!(ビリャ万歳!)は本作の主人公パンチョ・ビリャ(Pancho Villa)から。ビラ(ビージャ、ビリャ、1877-1923)はメキシコ革命(1910-1917年)で活躍した歴史上の人物だが、ビリャを描いた他の映画に『戦うパンチョビラ』(1968年のアメリカの映画。ビリャはユル・ブリンナーが演じる)があるがポルフィリオ・ディアス政権が倒されて、フランシスコ・マデロが大統領となった1911年以後の短い時間の話で、本作ではビリャの少年時代から死までを描いている点が異なる(本作の少年時代のエピソードもビリャの死も印象的であるが、どちらも歴史的に正しくなくフィクション)。ビリャを文盲で捕虜の殺害や多重婚をする粗野でネガティブな面も描いているものの、全編を通して愛すべき英雄として描いている。
本作の登場人物と歴史上の人物を比較すると、マデロは実在の人物で、本作では理想的な人物として登場するが、実際には革命後に保守的な姿勢に転じたことなどは、本作では描かれていない。ビリャの相手役(演じるのは「キング・コング」が代表作のフェイ・レイ)は架空のキャラクター。Stuart Erwin が演じる新聞記者のモデルはアメリカ人ジャーナリストのジョン・リード(1887-1920)であり、メキシコ革命やロシア革命のルポルタージュで有名(本作では新聞記者がビリャの死に立ち会うが、リードはビリャより先に死亡している)。敵役のパスカル将軍はビクトリアーノ・ウエルタ(1850-1916)がモデルであるが、パスクアル・オロスコ(Pascual Orozco、1882-1915)も名前と経歴を考えるとモデルの1人の可能性がある(オロスコはディアス政権の転覆に貢献したが、その後政権に対しても反旗)。
本作の冒頭に、メキシコはスペインと独裁者ディアスの圧政に苦しめられてきたと紹介されているが、歴史的には、当時、独裁者のディアスをコントロールしていたのはアメリカ政府である。E・ガレアアーノ「収奪された大地(藤原書店)」によれば、「米国はディアスを政治的下僕に変え、そうすることによって、メキシコを米国の従属的植民地に変えたp220」とある。さらに、ビリャの革命を妨害しマデロの殺害にも米国は関与していることが同書には、「ウェルタは米国大使ウィルソンと共謀してマデロを暗殺して政権を掌握p222」と記されている。ビリャはアメリカとも戦闘を繰り広げているが、こうした反米的歴史的事実は本作には登場しない。
メキシコ革命は北からビリャが、南からエミリアーノ・サパータがディアス政権の打倒に貢献し、サパータとビリャは交流があったが本作にサパータは登場しない。サパータを主役とした映画に「革命児サパタ」があるが、こちらにはビリャも登場し、映画としては本作より高評価の作品なので、おススメ。