「これは私たちの美しい国日本の悪の自画像だ」
この予告編のコピーはあまりにも…
前作から約一年。昭和ラストイヤーに公開された本作。まさにバブル景気真っただ中。土地神話は留まるところを知らず金融機関は誰彼問わず金を貸しまくっていた頃。
とにかく射程が広いし的確だし、それでいて文句のないエンタメ作に仕上がっている。
伊丹十三って批評家からは結構冷たい扱いだったけど、子供には素直に面白かったんだよなー。宮本信子には親しみやすさ、力強さ、優しさ、ちょっと真似したくなる要素があった。
80年代から10年ちょっと、間違いなく邦画のど真ん中にいた人。そのことが良かったのかどうか分からない。その経歴から精神分析的でぺダンティックな面もあわせつつ、晩年はこの作品のような社会悪を暴くジャーナリズムの人といっても良かったぐらい。もう少し他に誰か担ってくれよと思っただろう。とにかく公開された作品は誰もが観に行ったし流行語にもなったし何より面白かった。
OPはいきなりフルチ並みのグロ死体から始まる。そこからカットはカニのむしゃぶりつきへ。この変態的編集。あの悪のサンバのリズムで勝手にテンションが上がるよう仕向けられる。
映画の中の国税局の建物は一瞬新宿都庁かと思ったがこの頃はまだ有楽町。丹下健三の東京都庁は91年3月。あの建物はヤマトインターナショナルのビル(87年1月・原広司)。平和島にあるらしい。いつか見にいってみよう。
教団内部では毎夜オタ芸ならぬテクノパーティー。お経に合わせ信者たちがトランス状態に。ロックフェラーから買ったという10億の宝玉を前に教祖が祈祷している、ほんとはただのガラス玉。ハート頭の原泉の造形が見事すぎる。のーまくさんまんだー のーまくさんまんだー
お色気シーンにも事欠かない。よく地上波でゴールデンに流してたなー 普通に家族で見てたもの。いま観たらソープ嬢の泡プレイよりも、柴田美保子の愛人の方がエロかった。親はどんな顔してたのか。
(もえよちゃんはモノマネのなかじままりで、写真週刊誌カメラマンの清原は2代目コロンボの石田太郎だった)
店一番の人気嬢のマリちゃんは足を引きづりながら裏金の入ったバッグを届ける。彼女は障害者だ。中国で纏足が広まった理由とされている俗説を思い浮かべたが名器ってそういうことなの。たまたま？いや、稀代のエッセイストの監督が知らないわけないもんな。
それにしても役者たちは生き生きしている。ヤクザも査察官もみんな顔がいい。きたろうも不破万作もずんぐりむっくりの昔の日本兵のような体型だがパワーが漲っている。
魅力的な悪、チビ政も猫田も最後はトカゲの尻尾切り。がきんちょ達に見守られながら死んでいく。ああ悪くないなと思ったかも。
誰より三國連太郎演じる鬼沢鉄平がもうカイジに出てくる利根川のようでひれ伏してしまう。
取調室での鬼気迫る開き直り、土下座までしておいて紳士口調から一転
やかましいっ 俺は国のために地上げ屋やってるんだ
東京が国際的な情報都市として世界の金融センターになるためにはなぁ、、
日本の改革のためにはな 誰かが汚ねえ仕事を引き受けなきゃならねえんだよぉ
てめえらそれでいいのか おい 日本がどうなっても構わねえってえのか
他にも、日本人は全部村人だ などシビれる台詞がいっぱいあった。悪いやつは己を正当化するときいつも主語がデカくなるなぁ。
ま 今回観直したきっかけはもちろんあの事件。
ハンドバッグ代わりの宗教法人「天の道教団」、教団はただの隠れ蓑。裏では政界へ闇献金。
教団設立の捜査の中で、開祖として使われた住職(笠智衆)は実はまったくの無関係だった。岡本麗のホステスも勝手に名前を役員として使われていた。
あの団体も元はキリスト教系のいかがわしい性愛を使った活動をしていた小グループで拡大にはKCIAが深く関与していた。この辺りは北との関係もあり真相は中々解明されないだろう。
78年の米国フレイザー委員会の報告にあったように宗教組織に擬態したコングロマリット集団というのが実際。勝共やら何やらは方便。究極目的は政治工作活動。日本から集中して吸い上げた寄進マネーは世界中にまわっていく。金に色はない。ミサイルにだって化けるだろう。
既に新聞テレビは沈静化に向かっている気配だが、ここまでだってマトモな報道は限られている。これが実状。もしこれを映画になんてしようという人が現れたら。。いくつ命があっても足りないな。
だけど忘れたころに大きく動くような気もちょっとしている。
普通に考えて今回のこれは治安秩序を守る公務員が一番悔しい思いをしているはずだ。エラい奴は嫌いだが日夜懸命に働いている現場の兵隊は別。
ラストで金網越しにワルどもを見ていたマルサの面々。頑張れマルサのジャック・ニコルソン、頼んだ桜金造。裏でうごめく利権屋どもに一泡吹かせてやってくれ
合言葉は、035814 マルサコワイヨ
⇒撮影：前田米造
⇒編集：鈴木晄
⇒音楽：本多俊之
