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宇宙飛行士の医者の海のレビュー・感想・評価

宇宙飛行士の医者(2008年製作の映画)
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生か死か、花か涙か、愛か未来か。画面の中に、苦悩と悲哀が霧となって漂う。言葉が飛び交い、寒さの中ではひとの手のひらだけが色を持つよう。救いや、理由や、価値や、道標に、形を変えていくべき一筋の希望が、この地ではただ雨となって降る。僅かに見えていたはずの光は霧の中に霞み、何度も触れて確かめられる身体に感じていたはずの約束は、雨の中に離別していった。知識という凶器に、感受性という悪魔に、あなたという人間に背を向け、意味のない言葉をつなぎましょう。壊れた傘は何度も閉じる。あなたの横で、ベッドの上で、伝えたかった話の続きが、今も哀しそうに風の向こうで浮かんでいる。歳月で洗い流して目隠しをしてこのまま、砂漠の砂のように、海の波のように、流されて、流されて、行方をくらませて。あなたを失くしても、わたしは生きていく。それも運命。

2018/11/20
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