茶一郎

カジュアリティーズの茶一郎のレビュー・感想・評価

カジュアリティーズ(1989年製作の映画)
4.1
 かのブライアン・デ・パルマ監督が、大ヒットを記録した勧善懲悪の大エンターテイメント『アンタッチャブル』の次に撮った作品は、ベトナム戦争のレイプ劇を描いた地獄のドロドロ映画=今作『カジュアリティーズ』でした。

 1966年、ベトナム戦争においてアメリカ兵が「慰安」と称し、現地の少女を誘拐、そして強姦するという事件が起こりました。今作『カジュアリティーズ』は、この最低最悪の事件を基に、善悪の境を失った戦争における地獄と、その地獄における兵士の極限の心理状態を映し込みます。
 冒頭、夜のジャングルの戦闘シーンから恐怖心をわしづかみにされますが、デ・パルマ監督は今作を戦争映画としてではなく、自身の得意ジャンルであるスリラー映画として仕上げました。戦場という地獄における恐怖は、死が身近にありすぎることでブレーキを失う倫理観と兵士たちのコミュニティで発生する村社会的な同調圧力です。

 少女誘拐・強姦に走る5人の小隊において、唯一、強姦に反対するのは主人公エリクソン。彼を演じるのは、『ファミリータイズ』から当時『バック・トゥ・ザ・フューチャー(BTTF)』で飛ぶ鳥を落とす勢いだったコメディスターのマイケル・J・フォックスです。BTTFシリーズの狭間で恐ろしくシリアスな今作に出演していました。

 全編、倫理観のたがが外れ、罪悪感に追いかけられる、外も内も地獄絵図そのものですが、印象に残っているのは、小隊の隊長であるショーン・ペン扮するミザーブ軍曹が強姦に走る直前に自身の「ペニス」と片手に持った「銃」を重ね「どちらも『武器』だ」と最悪の演説をする場面です。
 そもそもベトナムを共産主義から救おうと大義名分を掲げ始めたこのベトナム戦争。しかし蓋を開けてみると、現地の少女を「ペニス」で強姦すると同様に、戦場であるベトナムを「銃」でめちゃくちゃに辱めた、その現実が奇しくもこの加害者(ミザーブ=アメリカ)の発言に集約されていました。

 画面に原題『カジュアリティーズ・オブ・ウォー』=『戦場の死傷者』の文字が出るとき、画面はアメリカ一般市民を映します。ベトナム戦争は、他国だけではなく自国の人々も凌辱し、傷つけました。
 何度となく映画の中で女性を殺し、そこに閉じ込める『めまい』的演出(展開)を多用するデ・パルマ監督ですが、ラストの『めまい』展開には日常に戻っても戦場の地獄が続く感覚があります。
 尤も、アメリカはベトナム戦争の罪を再び、イラク戦争という形で再現することとなり、デ・パルマ監督も再び、『リダクテッド』でその罪を暴くこととなりますが……
茶一郎

茶一郎