メモ魔

麒麟の翼 〜劇場版・新参者〜のメモ魔のレビュー・感想・評価

4.1
本当に綺麗な作品だった。
構成から監督がこの作品を通して伝えたい筋、それに対比構造を使った人物達の思い。
何より、死ぬ直前に見せる人間の輝きをこの映画に見た。

東野圭吾やっぱ天才や。

たくさん書きたいことはあるけどとりあえず思い出したところから。
この映画は色んな教えを視聴者に見せてくれる。それの一つとして、先を生きる人が後世へ伝えるべき公式についての話があった。
劇団ひとりが演じた先生役は完全な反面教師やね。自分の独りよがりが、その間違った公式が、その先に待っている問題を全て間違った解答へと導いてしまう。その例が山崎賢人演じた少年。
3年前あのプールで[ばれないことは罪ではない]ことを学んだ生徒の末路をうまく描いてたと思う。
思えばこの少年は不憫よな〜。
て思ったけど別にそうでもないか。
そもそもの話、この少年が菅田将暉をプールで殺したことが原因だし。
それに飽き足らず事件を隠蔽し、松坂桃李とは打って変わって鶴を折るとかの思考にも至らず、最後なんて事件の真相をしられたからとりあえず殺して無かったことにしてしまおうって子だからな。この子だけはこの物語で救われないよ、、
完全にいい師に出会えなかったアンチとして描かれてるな。ここまでマイナスに偏ったから松坂桃李の善行が際立ってたのかもしれない。

この対比として松坂桃李が描かれてると見ていいはず。
松坂桃李はプール事件を隠蔽した後、七福神へのお参りを始める。←この時点で既に山崎賢人とはルートを別にしてるけど、、
劇団ひとりは後世に隠蔽を教え
中井貴一は後世に[踏み出す勇気]を自分の死をもってして伝えた
ってゆー対比が綺麗だな〜って思った。

あとこの作品は死ぬ間際に見せる人間の輝きを描くのがうまいと思った。
普段はプライドや羞恥が邪魔をして本心の輝きに曇りを見せる人物達が、自分の死期を悟った時に見せる、[本当はこうしたかった。こうあってほしい人がいた。だからこの死をもってして伝えられる思いを、、]
ってゆー強い念みたいなものを阿部寛父と中井貴一の最後から感じた。
この思いを真の意味で受け止めることが生きる者の使命だ
ってセリフがあったけどこの物語全部見てからだと思うところがある。

ここら辺の監督がこの作品を通して伝えたい核みたいな所をしっかりミステリーと絡めてるのがまた良い。
最初の1時間とか正直
あ、これただのミステリーか。核の無い映画だつまらないな〜って思っちゃったけど、笑最後の30分ですっかり評価変わった。
親父の不可解な行動全てが、この物語で監督が伝えたかった[死者の思い]に繋がってたって思うと2回目がもっと面白くなる作品って感じがする。

あとはやっぱ今回も思ったけど俺家族ものの涙にめっぽう弱いな〜。

今回も最後、日本橋で松坂桃李が自分の罪を償う勇気を親父から麒麟の前でもらったシーン。
死んだ親父が遠くから笑顔で、安心したような、背中を押すような、最も旅立つ息子を見送るような、そんな笑顔で松坂桃李が自分の中の親父に正面から顔向けできるようになった。胸を張って誇れる父親に顔向けできるようになった。そんなシーンって感じがして親子で紡がれてくる大切な思いを見た感じがして一番涙止まらんかった。
登場人物が自分の成長を感じて、その成長を死者が笑顔で見届けるってのはもう一番泣けるシーンよな。
お互いが涙じゃなくて笑顔で顔向けしてるのがまた良い。

ああと細かいところだけど、松坂桃李が[行こうか。]って言った後にパトカーが後ろを通り過ぎるって描写。これは多分この後警察に出頭するって暗示だと思うんだけど、、言葉じゃなくてそーゆー所で暗に伝えるの粋やなぁて勝手に思った笑

ミスリード要因として採用されたであろう三浦貴大もしっかり物語に入ってきててほんとにこの話綺麗な構成でできてるな〜って思った。
この物語の核である[死者の声を生者が受け止める]って部分で、このキャラが死亡する理由は大いにでかかった。
このキャラが死亡したことでミステリー方面も話がいい塩梅でこじれたし。
このキャラの死はこの物語で重要なキーだったように思う。

絵馬で安産を祈願してたって演出も良かったな〜。
ってか今思えば電車の金足りなくてさ、歩いて帰ってきたんだ。
ってセリフはこれの伏線だったんだな。
死んだ人の声をしっかりと受け止めて、その誤解を解き自分の手で育てようって覚悟を決めた新垣結衣の決意も良かった。

死んだ人が自分の知らない部分を露呈していくことって残された人からしたら凄い怖い事だと思う。
自分の中で今も生きてる人がどんどん汚れていっちゃうわけだから。
でもその恐怖に打ち勝ち、本当の意味で死者が生きた証を受け止めるってことがこんなに綺麗なことなんだなってのをこの作品からしれた。

総評
構成がとてつもなく良かった。
どのシーンにもそのシーンが映画を構成する上で重要な意味を持っていて、余すところなく最後の30分で拾い上げていくところが、さすが東野圭吾だなって思った。
起承転結以上に綺麗な構成を見た気がする。

それでいてこの物語が伝えたい核みたいな部分がしっかり視聴者に伝わる形になってるのがほんとに綺麗。

4.1点

ミステリー作品の中だと今のところ一番面白い(いや面白いってよりかは綺麗だなって感じ?)作品だった。
一つ気がかりなのは、最初の1時間数十分がかなり退屈だったこと。
ミステリー作品って最初事件の粗探しから始まるけど、事件の核に迫るまでの道のりってどうも退屈に感じちゃう(この退屈なシーンが後々めちゃくちゃ効いてくるんだけどね)。
最終的に重要なシーンになるだろうなって思うからめっちゃ集中して見るけど、そこに引き込まれるような要素はこの作品にはなかった。
だから4.1点。
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