シュローダー

スキャナーズのシュローダーのレビュー・感想・評価

スキャナーズ(1981年製作の映画)
4.5
やはりデヴィッドクローネンバーグ程信頼の置ける映画監督は居ないとひしひしと感じる一作だった。要人警護の国際的警備保障会社コンセック。超能力の利用を推し進めていた同社の研究所へと運び込まれた浮浪者のカメロン。責任者のルース博士の言によると、カメロンも超能力者(スキャナー)のひとりであり、その力が必要になったのだと告げられる。カメロンに与えられた任務とは、反社会的なスキャナーを結集して世界を塗り替えようと画策する凶悪スキャナー、ダリル・レボックの殺害だった。レボックの居場所を探るために行動を開始したカメロンだったが、その過程で彼は思いもよらない事実を知ることとなる…
今この世に出回っている「能力バトル物」のフォーマットの礎を築いたのは間違いなくこの映画ではなかろうか。突如力に目覚める主人公と、それと相対する宿命を背負った敵。同じ能力を持った人間同士のぶつかり合い… と上げていけばキリがない。この作品の象徴とも言えるビジュアル 人間の頭が内側から爆発するという衝撃的なシーンは、「AKIRA」や「北斗の拳」で直接的にオマージュされている。だが、この映画の本質はそこではない。この超能力バトルというエンタメ性と、クローネンバーグという監督の決して万人向けとは言えない作家性が、見事な融合を果たしているのだ。デヴィッドクローネンバーグという作家は、一貫して「人間という"生き物"の相対化」と「肉体と精神の変容のプロセスの考察」を描いている作家である。今作で言えば、スキャナーと呼ばれる超能力者たちの抱える"孤独感"が非常に寄る辺なく伝わってくる。何故ならば、この作品には、普通配置されていてもおかしくない「超能力を持たない一般人の協力者」と言ったキャラクターが事実上存在しないからである。これによって、主人公のカメロンを含めたスキャナーたちが生きている世界の閉塞感と、能力に目覚めた事による苦しみがダイレクトに伝わってくる。スキャナーたちは"人間"ではないという事を示すカメロンを見つめる人々のシーンの冷徹さこそクローネンバーグ映画ならではの相対化視点である。また、スキャナーへの変容が化学によってもたらされた物であるというのも、非常にクローネンバーグ的な理屈だと思う。彼ほど、「化学的」という言葉が似合う映画監督は居ない。あのクライマックスの顔芸合戦も、普通ならケレン味を効かせた演出をする場面の筈なのに、観念的な戦いへ落とし込んでいるのも、この映画における超能力は、内的な葛藤を視覚的に示す為のメタファーでしかないという事を論理的に示すためだろう。そしてあのラスト 観客の解釈を分けるラストではあるが、僕は「ザ ・フライ」的な融合を表しているのだと思う。真の意味での新人類の誕生であると。とまあ、長々と書いてはきたが、基本はエンタメ要素満載の大変面白い作品です。カメラワークの心地よさやら、マイケルアイアンサイドの演技やら、特筆すべき点はたくさんある。未見の人は是非観て欲しい。