ブタブタ

スキャナーズのブタブタのレビュー・感想・評価

スキャナーズ(1981年製作の映画)
5.0
レストア版を鑑賞。
オープニングのハワード・ショアによる美しく悲壮感に満ちた旋律のスコアが素晴らしい。
『羊たちの沈黙』のテーマ曲に匹敵する名曲だと思う。
『AKIRA』の超能力シーン『北斗の拳』の人体破壊等など後のこの手の作品に与えた影響は計り知れないクローネンバーグの出世作で最高傑作だと思う。
『X-Men』にそのスピンオフ『レギオン』等、連綿と続く畏怖や差別の対象としての超能力者や異能者達の孤独、永遠に続く善と悪の戦いを描いた全ての始まりとも言える作品。
CG以前VFX以前の低予算映画であり、超能力という目には見えないパワーを映像で見せるのは特殊メイクと俳優の熱演によって表現されていて、今見ても全く遜色ない異様な迫力に満ちている。
頭が吹っ飛んだり血管が膨らんで血がピューのグロ描写は寧ろ副次的な物で、超能力者達の精神世界内におけるぶつかり合い。
精神の変容が肉体を変化させ、更には世界をも変革する。
化学や医療の進歩が人間を変容させミュータント化を促す。
寒寒としたカナダの風景をバックに展開する異能者達の戦い。
テクノクラート・コンセック社が進める「ライプ計画」や、変わったデザインのショットガン持った警備員のデザイン等やはり『レギオン』にも影響与えてる。

国際要人警護会社コンセックは超能力研究を密かに行っており、強力な超能力者であり故に浮浪者として過ごす主人公カメロンをリクルートし超能力によって世界を支配しようと企む悪の超能力者レボックを倒すべく協力を要請する。
カメロンは他の超能力者と比べてブッチギリのチート能力者であり、それはレボックと同じく超能力を覚醒させる新薬実験の最初期に生まれた「第一世代」であり、その原因であり元凶・大元はコンセック社そして科学者ルース博士である事を知る。
「第二世代」の女性キムを中心とする超能力グループも加わりカメロンVSレボックの超能力戦争が始まる。
レボックが能力で人間を操りカメロンらの抹殺を図るシークエンスでは何の関係もない人間が突然襲撃部隊と化して、それもさも当然の様に武器を手に淡々と襲ってくるのが恐怖。
ラストのカメロンVSレボックの壮絶な超能力戦の果ての「僕たちの勝利だ」のセリフは、カメロンがキムに対して「僕たちの勝利だ」と言ったのか。
それともレボックと融合し一体となったカメロンとレボックの「僕たちの勝利だ」なのか。
または新薬実験によってこれから生まれてくる数十万の赤ん坊「新世代」の超能力者達の、旧人類にとって変わる新人類の「僕たちの勝利だ」とカメロンは言ったのか。
クローネンバーグ監督は初期作『ブルード』から次作『ヴィデオドローム』近作『コズモポリス』に至るまで、一貫して精神の変容と其れが肉体に与える影響、精神世界での他者と融合し別のモノに変わって行く恐怖と同時に其れを堪らなく魅力的に描いている。
80年代のスプラッター映画ブームの勃興期に現れた超能力スリラースプラッター映画の傑作。

昔高円寺にあったマニアック・レンタルビデオ店「オービス」にはサイキックTVのMVやクローネンバーグ監督も大ファンのWSバロウズ出演の実験映画やら他にはないVHSビデオが沢山あって、80年代スプラッター映画ブームの有象無象のBC級スプラッター映画と合わせて、とにかく映画を見る楽しさを知ったのはあの頃だったな~と久々に『スキャナーズ』を見て思い出しました。
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