櫻イミト

来るべき世界の櫻イミトのレビュー・感想・評価

来るべき世界(1936年製作の映画)
3.5
1936年(昭和11年)に作られた近未来ディストピア映画。脚本はSFの父、H.G .ウエルズ本人。

1940年クリスマスイブのイギリス。突如、戒厳令が発せられ戦争状態に突入する。以後20年以上戦争は続き文明は崩壊し、1966年には生物兵器の使用で”さすらい病”が蔓延。1970年に事態は収束するが、瓦礫の町はディストピアと化し野蛮な独裁国家を成していた。。。

SF映画の歴史が、ラング監督の「メトロポリス」(1927)「月世界の女」(1928)から次のターンに入ったことを示す重要作。近未来のミニチュア特撮は当時とは思えない精度でビジュアルも楽しめる。

本作鑑賞のポイントは、まだ”核兵器”が存在しなかった時代の近未来SFという点だろう。物語の軸は自然主義と科学主義の対立だが、科学否定の論理が迷信のレベルにすぎず説得力を持ち得ていない。戦前とはまだそのような時代だったことを再認識させられ、同時に本作から87年間の人類の変化を実感した。

映画フィクションとしても様々な先駆が見られ興味深い。ディストピア独裁者の服装は「マッド・マックス」を、謎の疫病”さすらい病”は「ゾンビ」を先取りしている。

人類代表の恋人カップルが、現在から見ると甚だしく心許ない月ロケットに乗って打ち上げられる様子には、現在の映画にも勝る強いロマンを感じた。ロマンとは未知なるものへの期待と不安の感情である。これから先、映画はこれほどのロマンを創造できるだろうか?

※本作はハリウッドに押されて停滞していた戦前イギリス映画の数少ない名作。この1936年は英国映画史上最多の192本の作品が製作された。
櫻イミト

櫻イミト