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ロンリーハートのotomisanのレビュー・感想・評価

ロンリーハート(2006年製作の映画)
4.6
 孫監督にとってふたりの忌まわしい事件も、まだしも分かりやすい分、御しやすい対象だったろう。むしろ、その傍らで描かれる祖母の自殺の詳らかでないところにどんな想像を盛り込んだのだろう。結婚詐欺の片棒、マーサの血みどろの狂態を支えた骨絡みレイモンド狂いか何かの腑に落ちやすさ、いかな狂気の持ち主とはいえその一途さは悪どくも美しくさえ感じる。
 祖母の、というよりはロビンソン刑事の妻が、若くして自殺する結婚記念日、その日までの刑事の実績が食卓で夫の代わりに場を占める中、妻を返上してなお自殺し、刑事の業績の一コマとしてファイリングされる事を望んだとは思われない。しかし、刑事の生きる世界に遂に一場を占めて沈黙する事に奇妙にも哀しいような哀れなような気がする。
 そして、それと対蹠的に、夫を攫って往く殺人者たちのとりわけあさましい二人の行状と誰を殺してでも生きて二人してあろうとする業を前に、むしろ死んで済ましてしまう事の不思議さのような事を覚えて止まない。
 わかりやすく果たされる殺人に対し、なにも本当の事が知れない気な妻と母と祖母の退場が導くのは、結局残されて戸惑う者たちの残されたなりに生きねばならない、それでもいいから生きていこうという思いであろうか、割切れないのだが、ただ後を引くのだ。
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