松井須磨子を描いた衣笠貞之助監督作品。1947年。東宝。主演:山田五十鈴。同年に松竹で溝口健二監督の「女優須磨子の恋」(主演:田中絹代)も公開されているが、全く同じテーマの作品が同じタイミングで封切られたのには何か理由があったのだろうか。
それはともかく、“因習からの解放を求めて思うままに生きた女優” というテーマを前面に押し出した本作は、何だか奥歯に物が挟まった感がある溝口版に比べて分りやすく面白い。演じる山田五十鈴も、まさに本質からして須磨子そのものといった感じで、ぴったり嵌っている。加えて、そうした自由な女性が放つ光に照射されることで、劇団員の男たち(全員では無いが)の醜悪さ、運営や権力やプライドが醸し出す嫌らしさが、浮き彫りにされていてとても良い。
一方、島村抱月が亡くなった後の須磨子の描かれ方は、感情が行きつ戻りつしていて(それが狙いなのかもしれないが)何だか良くわからない。この点については、田中絹代の演技が鬼気迫っていた溝口版に軍配が上がるように思う。