rs

舞踏会の手帖のrsのレビュー・感想・評価

舞踏会の手帖(1937年製作の映画)
-
晩秋の霧たちこめる、憂愁の古城を後にして、若き未亡人は旅に出る。あの美しい夜、共に踊った若者たちよもう一度、と、彼らの名が連なる手帖を携えて。
初めての舞踏会、瞼を閉じれば今も聞こえる甘いワルツ。扇の陰で一生の愛を囁いたあの唇…。
しかし旅の中で、美しい青春は幻に過ぎないことを思い知らされる。

旅路の果てに辿り着くようにして出会った少年の肩を押し、舞踏会へと誘う。誰もいなくなった部屋の壁に、ワルツを踊る人々の幻影が揺らめくラスト。
序盤で舞踏会を思い出すシーンと同じく、華麗な演出でロマンティック。

主人公クリスティーヌの眼差しは、変わり果てた男たちを前に、どこか遠くを見ている。
しかし過去から解き放たれ、少年に話しかけるときの彼女は違う。正面からのアップで映された彼女は、まっすぐにこちら(=少年)を向いていて、まるで語りかけてくるかのよう。
正気を失った男に会うシークエンスでカメラは被写体を斜めに捉えており、ダッチアングルの不安定さから狂気を感じさせる。
また未亡人が尋ねた少年の名が、後に少年の名を呼ぶショットに繋げられて、編集や演出の妙がある。

失われた時代の愛を求めて開く、パンドラの箱のような旅。その果てに、彼女はこれからの自分を見つける。
rs

rs