のび

のびの感想・レビュー

長屋紳士録(1947年製作の映画)
3.9
映画『長屋紳士録』は、東京の下町を舞台にした”拾い子"をめぐる人情劇。現代のわたしたちの目から見ると、”拾い子”を引き取ったおたねが男の子へ向けるまなざしは、時に冷たく感じるほどにドライだ。だからこそ、後半になってようやく芽生えた愛情がより温かく感じる。ああ、人間の思いやりはまだ捨てたもんじゃないなと。

けれども物語の最後では、ほっとした気持ちを抱いたわたしたちの目の前に戦後すぐの現実が映し出される。その現実は、戦後の東京に残された戦争の生々しい傷跡と言っていいだろう。そんな傷跡は物語が終わったあとも、あの現実はどうなったのだろうと、わたしたちの心をざわざわとさせる。

この映画は、空が印象的な映画だ。本作には戦後すぐの東京の姿が映し出される。激しい空襲のあとを思い起こさせるような、むき出しの土だらけの東京。ようやく瓦礫が片付いたばかりのようにも見える。まだまだ戦争の傷跡はあちこちに残されている。

ただ、そのような東京の空は大きく広がっている。これがカラーの映画だったら、青く透きとおった空がどこまでも広がっているのだろう。人々の上には、青い空が戦争の傷跡を見つめている。モノクロ映画にもかかわらず、画面に映し出される終戦直後の空が、やけに心に響く一本と言える。