ほーりー

長屋紳士録のほーりーのレビュー・感想・評価

長屋紳士録(1947年製作の映画)
4.6
小津安二郎の作品だと「生まれてはみたけれど」や「長屋紳士録」「お早よう」あたりが好き。出てくる子役たちが生き生きしているからだ。

さすが元代用教員だけあって小津監督の子供の描き方がとってもいい。
小津映画が苦手っていう人をよく聞くけど、こういうコメディならばすぐに馴染めるような気がする。

「長屋紳士録」は戦後直後のお話。小津監督の戦後復帰第一作にあたる。

出演が、飯田蝶子に河村黎吉に笠智衆に坂本武に吉川満子でしょ、こんな最高の布陣は他にないと思う。

靖国神社で親にはぐれた男の子を拾った笠智衆。仕方なく長屋に連れて帰ることにしたが仕事で忙しい手前、子供を長屋の女将さんである飯田蝶子に押し付けてしまう。

ところがその晩、少年は早速馬のように寝小便を垂れてしまい、子供嫌いの女将さんは堪忍袋の緒が切れる。

この時の叱りつける女将さんの顔をいつもの小津アングルで真っ正面から撮っているから余計可笑しい。

「めっ!!」

と子供を睨み付ける飯田蝶子の形相は、まるで睨めっこをしているかのようで、これがどうして笑いを我慢できようか。

そんな怒られる男の子を演じたのは名子役・突貫小僧(青木富夫)の弟である青木放屁。
放屁ってもの凄い芸名だけど、名前の通り本当に小汚ない子供なんだこれが!

干し柿のくだりも腹抱えて笑った。あまりにも図々しい河村黎吉も素晴らしい。

河村黎吉って人を説明しますと、「社長シリーズ」の元になった「三等重役」で主役を演じた人で、あの森繁久彌に多大な影響を与えた俳優であります。

で、話を映画に戻すと、子供にキツく当たっていた女将さんも徐々に情がうつっていく、写真屋さんでのシーンがほのぼのとしていて、思わず頬がゆるんでしまう。

そんな心暖まるシーンもあれば、劇中、上野公園で戦争孤児たちが煙草を吸ってるシーンがある。

この対比がとても胸を打つ。本作は単なる喜劇ではないのだ。

最後に、やっぱり一番印象的なシーンは、笠智衆が“のぞきカラクリ”の口上をする場面。これが本当にカッコいい!笠さんってこんなにリズム感のある人だったんだと驚いてしまう。

「長屋紳士録」をまだ観ていない方、Googleで“のぞきカラクリ 長屋紳士録”で検索すればすぐに動画がヒットするので、ぜひこの場面だけでも観ていただきたい。

■映画 DATA==========================
監督:小津安二郎
脚本:池田忠雄/小津安二郎
製作:久保光三
音楽:斎藤一郎
撮影:厚田雄春
公開:1947年5月20日(日)
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