カツマ

ポセイドン・アドベンチャーのカツマのレビュー・感想・評価

4.2
享楽のパラダイスが一瞬、修羅の渦巻く地獄と化す!神の光すら届かない死の滝壺の奥底で、選択が生死を分ける決死の脱出劇の幕が開く・・!皆が死神を背負っているような状況で、何を信じ誰に付いていけばいい?正解などない、ただそこには進むべきか立ち止まるべきかの選択だけが残された。地平は逆転し、冥界の入り口だけが追いかけてくる。そう、逃げても、逃げても・・!

パニック映画というジャンルを映画界に打ち立てた金字塔的な作品と言っていいだろう。逆さまになった巨大な船体セットを用いて、大スケールのサバイバルドラマをヒタヒタと忍び寄る恐怖と共に描いている。まだCGも無い時代、あの転覆のシーンや水流が雪崩れ込むシーンでの人々の逃げ惑う姿があまりにもリアル過ぎて、初めて観た時にはトラウマレベルのダメージを受けた。実は宗教的メタファー映画としても機能しており、物語に多義性を内包させるという離れ業が見事に決まっており、パニック映画の元祖にして最高峰と呼びたい作品だ。

〜あらすじ〜

豪華客船ポセイドン号は新年を跨ぐべくギリシャからアフリカへと航行していた。船長らクルーの面々は老朽化した船での航海に一抹の不安はあったが、何とか波も引き、翌朝には美しい朝日が顔を出していた。
乗客の中には、異端の牧師フランク、ローゼン老夫妻、ニューヨーク市警の警部補ロゴと彼の妻リンダ、牧師に淡い恋心を抱くスーザンと、彼女の弟ロビンらが乗り合わせていた。
そして、迎えた大晦日の夜、新年のカウントダウンが始まった。はしゃぎ踊る乗客たちは誰も彼もが楽しそうだ。だが、新年を迎える直前操舵室では海底地震の発生をキャッチ。更にはその数分後、巨大な津波がポセイドン号を恐るべき凶悪さで押し倒したのだ。床と天井が回転し、乗客たちは次々と落下し、死体が転がり、船内は破壊し尽くされた。果たして生き残った者たちは、今にも呑み込まれんとする船から脱出することはできるのか・・!

〜見どころと感想〜

この映画は容赦が無い。死んでいく者たちは淡々と退場し、後ろを振り返る余裕すら与えてくれない。特に転覆後、華やかだったダンスフロアがカオスと化し、しかも追い討ちをかけるように悲劇の選択者達が慈悲も救いも無く、ただただ死んでいく描写があまりにも怖い。子供の頃に観たこのシーンは未だに脳漿にこびり付いて離れてくれず、個人的にパニック映画といえばまず連想されるシーンとなっている。

配役では『フレンチコネクション』でオスカーに輝いたジーン・ハックマンが牧師役として堂々主演を務め、生存者たちを先導する勇気ある希望の人を熱演。この牧師が少数派の生存者達を圧倒的なカリスマと統率力で導いていく、という描写はモーセの出エジプト、ノアの箱舟など連想されるエピソードが多いが、最もしっくり来るのはやはりイエスと牧師との類似点だったと思う。終盤の展開も正にキリスト教を示唆しており、宗教的メタファー映画としての役割をかなりダイレクトに描いている作品だった。

〜あとがき〜

十数年ぶりに観てみると色々な多義性にも気付くことができ、迷える者に『前進せよ!』と語りかけるようなメッセージも受け取ることができました。全くアドベンチャーではなく、もはやホラー。CG、VFXが当たり前の今見ても、やはりこの映画の衝撃度は少しも衰えていませんでしたね。

時代が時代だけに乗客に黒人がいなかったり、女性が妙に男頼りだったりと、時代が違ったこともまた感じさせてくれました。ちなみに、この映画に恋愛要素を特盛りにするとタイタニックに、鮫を追加するとディープブルーになります(笑)
00年代に入ってからのリメイクはちょいと残念な出来だったので、そろそろこの名作の再リメイクにトライしてくれる勇者が現れてほしいなぁと思いますね。
カツマ

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