茜

盲獣の茜のレビュー・感想・評価

盲獣(1969年製作の映画)
4.6
数ある映画化された乱歩作品の中でも上位に入る出来の良さなのでは…と個人的には思う。

登場人物は船越英二・緑魔子・千石規子の3人だけ。
しかも話の舞台は殆どが女体を象った彫刻で埋め尽くされた狭い密室のみ。
確かに無数の腕や巨大な女体のオブジェという美術面での気味悪さもあるんだけど、やっぱり何よりも主演3人の演技力が凄い。
乱歩作品の狂気をここまで純粋に演技で表現した作品が観れるなんて乱歩好きとしても興奮しちゃう。

純粋さを拗らせた盲目の彫刻家を演じる船越英二や、惜しげもなくヌードを披露して力強い眼力で魅せる緑魔子も勿論素晴らしい。
だけど盲目の息子と一緒に誘拐を企てる母親・千石規子の生々しい演技も良い意味で気持ち悪くて良かった。

盲目が故に世間を知らず、女性と触れ合う事もなく、只々緑魔子の身体の造形に魅せられ彫刻を掘り続ける男。
妖しい表情で男を巧みに誘惑しつつ母親の嫉妬心を煽り、ラストに見せる狂気の叫びが圧巻な緑魔子。
このドロドロ模様が異様なオブジェで埋め尽くされた密室空間で展開される様はまさに芸術そのもの。

小説をそのまま朗読しているかのような、やけに説明がかったナレーションは好みが分かれそうですけど、それに負けない演技力が存分に発揮されているので自分はそこまで気にならなかったです。
欲を言えばラストの狂気は彫刻ではなく生身と血液でお願いしたかったけど、それでも充分に満足できた。素晴らしい。
茜