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西鶴一代女のtakのレビュー・感想・評価

西鶴一代女(1952年製作の映画)
4.2
溝口健二監督作は、「雨月物語」しか観たことがなかった。そこで国際的にも評価されている本作に挑んでみた。井原西鶴の原作は1686年作。ついていけるか不安だったのだが、波乱万丈の物語に引き込まれずにはいられなかった。よい物語は語り継がれるものなのだ。

なにより映像が雄弁。オープニングから歩く女性をカメラは追うのだが、その様子と通り過ぎる人々の様子だけで、説明がなくとも状況を把握させる。昔の日本映画では、スムーズな移動撮影は今程多くないから、なおさらだ。さらにクローズアップが少ないのだ。この映画はヒロインが次々と過酷な運命に翻弄される物語。なのにヒロインの口惜しい感情や途方に暮れる様子を表情をアップで撮ることで表現しない。

例えば、大名の妾として世継ぎを生んだ後、突然に暇を出される残酷な仕打ちの場面。実家に戻ったヒロインを遠くから捉えるだけで、両親の狼狽ぶりだけで全てを語り尽くしている。田中絹代の表情を正面から撮っているのは、散々な目にあった後のクライマックスくらい。成長した息子が生みの母を呼び寄せると聞いて屋敷に上がったにもかかわらず、浴びせかけられるのは冷たく心ない言葉の数々。それを黙って受け流すかのような冷めた表情は、実に切ない。

ヒロインをとりまく男たちの身勝手、理不尽、江戸時代の女性の扱われ方に憤りと悲しい気持ちが湧き上がる。次にどうなる、お春は幸せになれるのか、と先が気になって仕方ない。黒澤明のアクション時代劇でもないのに、140分超の日本映画クラシックに引き込まれるとは思っていなかった。いや、不勉強な僕がまだまだそんな日本映画の良作に巡り会っていないだけなんだろう。

あと、偽成金が金をばらまく場面で、「千と千尋の神隠し」を思い出した。
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