コハク

西鶴一代女のコハクのレビュー・感想・評価

西鶴一代女(1952年製作の映画)
4.7
シナリオやメッセージ性といった観点でこれより勝る溝口作品は色々あると思うが(近松物語、山椒大夫…)映像作品としてのカメラワークの卓越さではひょっとするとこの西鶴一代女が至高なのではないかと思う。
・島原に越後男が訪れるシーン、金貨を見て背後でてんやわんやで準備に走る店の者たちのスピード感が良い。そしてその後の展開における階段の使い方が最高に素晴らしい。お春を階下に追い詰めて叱る店主、そこに事態が好転し階段を登って2階の越後男を訪ねるお春、しかし役人が来て男が階段を走り降り地上で捕縛される様子をお春が2階から見守る。この空間(高さ・奥行き)の使い方とスピード感の妙は筆舌尽くしがたい圧巻のカメラワークであり何度見ても映画芸術の映像美の一つの到達点に触れた思いで涙が止まらない。
・この奥行きとスピードという点で言うと、都で爺が女を集めて殿の妻を探すシーンもすごい。人の顔を写してゆくスピードが(この作品では例外的に)喜劇性を高め、そして最後に奥行きを生かして数十人の女が一斉に手前を振り返るカットの迫力がすごい。また、松平家の屋敷でお春が廊下を連れ戻されるシーンの奥行きの使い方も素晴らしい。
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