ひでやん

バルカン超特急のひでやんのレビュー・感想・評価

バルカン超特急(1938年製作の映画)
3.9
列車内で忽然と消えた老婦人の謎を追うヒッチコックの英国時代の傑作。疑うべきは全ての乗客か、それとも自分自身か?

列車という密室を舞台に繰り広げるミステリーだが、その列車は雪崩のため運休。いや、宿屋で登場人物を紹介するための運休ともいえる。この冒頭が少し長いが、それぞれのキャラ立ちが実に巧い。

登場人物が多いと名前を覚えるのに一苦労だが、今作は名前がなくても豊かなそれぞれの個性が印象付けられる。クリケット好きな2人組の男が可笑しく、ロンドンからの電話を勝手に取り、勝手に切るシーンで笑った。弁護士と愛人、家庭教師、音楽家、結婚前に独身最後の時を楽しむ女性、そんな宿泊客たちがユーモア溢れる群像劇を繰り広げるが、外では静かなサスペンス。ギター弾きの背後にある影と、落とされた植木鉢は、回収される気配もないまま列車は走り出す。

頭を打って意識が朦朧となったアイリス。彼女は突然消えた老婦人を捜すが乗客は皆、老婦人の存在を否定。妄想か陰謀か、その謎にグイグイ惹き込まれる。とにかくストーリーが面白い。ホームズとワトソンを真似て推理する2人にワクワクが止まらない。謎の解明は最後まで取っておきたくなるものだが、意外とあっさり解明。なるほどという気持ちは、やや長い銃撃戦によって薄れたが、ずっと放置されていた伏線はちゃんと回収され、実に気持ちのいいエンディングだった。
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