MASH

バルカン超特急のMASHのレビュー・感想・評価

バルカン超特急(1938年製作の映画)
4.0
ネタバレ注意!!

観客の予想を見事に裏切ってくる映画だ。てっきり僕は『オリエント急行殺人事件』のようなものを想定していたのだが、この映画は単なるサスペンスという枠を超えて、当時の世界情勢を反映させた映画としても捉えることができるのだ。

あるアメリカ人の女性が老婦人と出会うが、その後その婦人は消えてしまう。乗客に聞くと、全員が「そんな人は最初からいなかった」の一点張り。老婦人は一体どこへ、そもそも彼女は存在するのか。というのが大まかなストーリー。これを聞くとヒッチコックらしいユーモア溢れるサスペンスだと思うが、後半からは観客が予想していたサスペンスからはかけ離れた怒涛の展開が続く。「変な映画だな」と思うかもしれないが、この映画は単なるサスペンスというわけではない。これは当時の第2時世界大戦が始まる直前の世界情勢を表しているのだ。

あの列車内はいわゆる連合軍側の国を表しており、犯人たちはいわばナチスである。多くの人は平和ボケしているが、そこには気づかぬ内にナチスの魔の手がもう入り込んでいる。そして終盤では列車外から攻撃を受ける。これはナチスが様々な国に攻撃を仕掛けていくことを示しているのだろう。そして「戦いに巻き込まれたくない」と言って降参した者は殺される。まさしく当時の戦争状態であったヨーロッパのことを、列車という限られた舞台でやってのけているのではないだろうか。そして何も考えずノンビリと構えていた当時の人々に対して、ナチスが迫ってきているという警鐘を鳴らしていたのかもしれない。考え過ぎかと思うかもしれないが、この映画は1938年に製作されている。これは第2次世界大戦が本格的に始まる約1年前であり、こういう思想が反映されていてもおかしくない。

まぁこんなことを真面目に考えなくても、純粋に映画として面白い。コメディ要素やサスペンス要素などがテンポ良く配置されており、最後まで全く飽きることなく観ることができる。ただ、この映画が作られたときの時代背景を考えると、この映画は単なるサスペンスではないということが分かるだろう。
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