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宵待草のryosukeのレビュー・感想・評価

宵待草(1974年製作の映画)
4.5
本作で神代は6本目だったが、神代らしいデタラメさが爆発しつつも一定の筋書きはあり、単純な画やアイデアの強力さも抜群で今のところは神代ベスト。
「映画は所詮遊びだ。悪い夢かもしれないがだからこそ面白い。」って本作そのものを表すセリフじゃないだろうか。
高橋洋子は「アフリカの光」では港町の芋っぽい娘だったが、本作ではちゃんと令嬢に見える。役者って凄いね。
初っ端から、神代のダイナミックでエネルギッシュな移動撮影長回しは、ポルノよりも活劇の方がいいんじゃないかと思えるほどの躍動感で惹きつける。
主人公が謎の頭痛で七転八倒する姿も素直に面白い。作り手であるロマンポルノ出身の神代が、主人公の設定のせいで得意の濡れ場を封じられ苦しんでいるようなメタ的な面白さすらある。主人公本人の行為じゃなければ大丈夫なのか、ついに始まったなと思えば、近くにいるだけでダメなことが発覚。
草むらから出てきた馬を借りて自転車を追っかけるナンセンスシーンと、唐突な首吊り死体の登場に至って、おっけーここから異世界ねとテンションが上がる。その死体との添い寝、人力車ぐるぐるによる令嬢誘拐とひたすらアイデアが強い。
間抜けな効果音と細野晴臣の気の抜けた音楽に彩られたダラダラしたチャンバラが素敵。とりあえず爆発もする。この辺りからもう一段ギアが変わって、加速度的にデタラメになっていく。
とにかく空に舞い上がりたいというだけで気球が登場し、こちらのテンションも急上昇。歌詞が共産党宣言の書き出しの歌が流れる(なんじゃそりゃ)んだけど、マジでこういう歌があるの?
気球は即墜落し、平田の剣に次々に串刺しになる部下。負傷したリーダー格の男の背後にある、落下した気球の謎の切なさ。
憲兵コスプレによる銀行強盗、天皇陛下への万歳三唱も意味不明過ぎて最高。豪華な山狩りの画も美しい。どうも感想を書いていても良い場面の列挙になってしまうな。魅力的な断片の詰め合わせが最後まで求心力を持つタイプの作品。いや本当はラスト付近はちょっとだけダレるがご愛敬。
破茶滅茶な出来事のどれがイニシエーションになったのやら、主人公が悩まされていた症状はラスト間際に失われている。反社会的な主人公の性的不能が解消された直後に死が訪れるのはニューシネマの「俺たちに明日はない」と同様だが、そういう型があるのかな。フラストレーションの一瞬の解消が呆気ない死にしか繋がらないことが、無力な個人の虚しさを強調するのだろうか。
「赤線玉の井」でもそうだったが、意地でもラストは海なのね。
高橋洋子によって延々と連呼される「どうでもいいじゃない」が耳に残る。どこか切ない決着を見せる本作だが、しかしやはりどうでもいい最高の映画に仕上がっていて、そうだよな、どうでもいいよなと元気が出る。自分も現実世界ででんぐり返ししてやろうかと思える傑作だった。
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