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二十歳の死のnetfilmsのレビュー・感想・評価

二十歳の死(1991年製作の映画)
3.9
 二十歳の従弟パトリックが散弾銃で自殺を図り、昏睡状態で病院に眠る。弾が脳を貫通しており、予断を許さない状況が続いている。映画はこの昏睡状態にある若者を巡ってのそれぞれの死にまつわる思いを詳らかにする。生と死の間の宙吊りにされたままの時間を、一つの空間に集められた家族、友人たちを通して、卓越すべき素描で据えた現代フランス映画界最高の才能アルノー・デプレシャンのデビュー作である。あまりにも濃密で緊張感のある短編でも長編でもない52分間という時間を、デプレシャンはリアリズム溢れる若者たちの言動とメリハリのある時間の経過で一気に見せる。冒頭、庭木を剪定する兄弟の描写はファミリー・ツリーを形成する家族のイメージに他ならない。デプレシャン映画の中では、誰か家族の死によって家族が一つ屋根の下に集まる。それと平行描写されるパスカル(マリアンヌ・ドニクール)の風呂場でのつわりの場面。生と死の残酷さ、家族の持つ超自然的な濃密さが同時に明示された素晴らしい開巻シーンである。母親は散弾銃自殺に動揺を隠せず、従兄弟たちはその死の重みがわからないからか冗談を言ったり、母親たちを揶揄う。若者たちの残酷な言葉に胸を締め付けられる。彼らは悲観するでもなく楽観するでもなく、それぞれの時間を生きる。喜怒哀楽の感情には兄弟姉妹従兄弟にズレがあり、それが微妙な心理描写で表現される。

 従兄弟が連れて来た彼女ローランス(エマニュエル・ドゥヴォス)は、このマクギリス家のファミリー・ツリーに新しく入ることになる未来の家族を連想させる。デプレシャンの映画の中では、エマニュエル・ドゥヴォスの登場シーンは
ほとんど全て新たなファミリー・ツリーの継承か消滅のイメージとして何度も繰り返される。兄弟の台詞にもあるように決して美人ではないが愛嬌溢れる彼女の存在はこの後アルノー・デプレシャン作品のミューズと呼ぶに相応しい存在感を見せ始める。決して広いとは言えない家族の空間の中で、従兄弟と兄弟たちがディスカッションを繰り広げる場面は只事ではない才能の登場を明らかにする。その中でショットの厳格さよりも役者の衝動を大事にするデプレシャンの才能は早くも露になる。空間の広さからクローズ・アップ中心のショット構成ながら、役者たちの焦燥感溢れる顔をこれでもかと映し出している。中でもマリアンヌ・ドニクールの表情が突出して素晴らしい。食卓を囲むテーブルの上で、伏し目がちになりながらじっと一点を見つめる彼女の表情。やがて彼女の白いシーツについた真っ赤な生理の血が、二十歳の従弟パトリックの死を告げる。あまりにも美しいラスト・シーンである。
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