KKMX

夏の嵐のKKMXのレビュー・感想・評価

夏の嵐(1954年製作の映画)
4.2
 ヴィスコンティの作品を初鑑賞。長尺ばっかの印象を持っていて避けていたのですが、2時間なので観てみました。いや〜、かなり面白かった!

 ヴェネツィアの伯爵夫人と当時ヴェネツィアを支配していたオーストリアの将校との不倫の話。正直メロドラマってほとんど観ないため、単純に新鮮で面白かったです。伯爵夫人のリヴィアがタイプだったので、よりハマれました。

 本作を観て、改めて恋の強大な魔力を思い知りました。その力に対抗できない者は、力によって押し流されますね。特に何者でもなく、繊細な人ほど濁流に飲まれる。本作を観て、改めて人は成熟する必要があり、内面の強さを高めていくことはもはや人類の義務だな、と感じました。
 伯爵夫人リヴィアもオーストリア将校フランツも、何者でもなく繊細な心の持ち主。恋という官能の夏の嵐に巻き込まれてこの世から飛ばされてしまった弱く哀れな2人の物語だったと感じました。


 1866年ヴェネツィア。伯爵夫人リヴィアはイタリア独立を目指すレジスタンスを支持し支援する熱い女性です。歳の離れた伯爵は彼女を理解せず、家庭内に居場所はありません。
 そんな折、従兄弟のレジスタンス・ロベルトがオーストリア将校フランツと決闘騒ぎを起こします。リヴィアはその仲裁に入ったところ、フランツにトキメいてしまいました。
 フランツは色男で、リヴィアとの再会を機にアプローチを仕掛け、リヴィアはまんまとフランツにハマって行きます。一方フランツは打算的で、リヴィアを利用していこうと画策していく…というストーリーでした。


 伯爵夫人リヴィアは哀れですね。もともと激しい魂を持ち合わせていたのに、それを発揮できる環境がない。おそらくその思いをレジスタンス支援に捧げていたのでしょうが、彼女の資質ならば、従兄弟のロベルトと共に行動する方が似合ってます。しかし、伯爵夫人だからそれができない。おそらく無意識的にはもどかしさを感じていたでしょう。もし彼女が現代を生きていれば、きっと仕事や社会運動に身を投じて充実した生を生きることができたと思います。
 どこにも居場所がなく、燃え盛る魂を注ぎ込む対象もない。伯爵夫人という縛りもあり、身動きも取れず歳ばかり重ねていく…こんな状況であれば、恋の誘惑に抗えるわけがないですよね。そして、リヴィアはこれまで恋を成すほどに成熟するチャンスもなかった。なんかリヴィアは可哀想です。

 一方、リヴィアの想いを利用するクソ男フランツは、ピュアなリヴィアとは違い初めから打算的に振る舞ってました。カネだけでなく、伯爵夫人をコマしているという征服欲求も満たしていたのでしょう。
 しかし、欲望のままに生きるにはこの男繊細すぎました。リヴィアのカネで除隊したフランツは自らの存在価値を見失ったのです。カネを巻き上げた後はリヴィアとの関係を完全に絶って、悠々自適に過ごすこともできたはず。でもフランツはそれが出来なかった。何も積み重ねてこなかった、単に制服を着ていただけで軍人だと錯覚していたフランツは、空っぽの自分と相対して、耐えることが出来なかったのです。フランツはリヴィアに手紙を出し、訪れて来たリヴィアの前で荒れるフランツはあまりにも惨めで哀れです。
 フランツの実存的な虚無感は、『イージーライダー』のキャプテン・アメリカを連想しました。カネとドラッグと自由を得たキャプテン・アメリカは気ままな旅を続けることが出来たはずですが、空っぽの自分に耐えられずに自爆していきます。後半〜終盤のフランツの姿は、この哀れなライダーに重なりました。

 リヴィアは恋の濁流に飲まれて流されました。フランツは恋に溺れることはなかったが、リヴィアを襲った恋の濁流に巻き込まれ、虚無を突きつけられてやはり流された。
 愚かな2人の自業自得の物語と見ることもできるでしょうが、その背景に目を向けると、哀れさを禁じ得ませんでした。


 物語以外の特徴として、とにかく絵面がゴージャス!1954年の作品とは思えない絢爛さです。カラーもくっきりしてましたし。さすが、お城で育った伯爵が撮ったガーエーです。

 そしてムンムンに匂い立つ官能美。本作の原題は『官能』らしいですから、そりゃもうリヴィアの艶っぽさがタマリマセン!髪型フェチとしては、きちっとまとめた髪のときの凛とした気品香る美しさと、腰まで伸びた長い髪を下ろしたときの野生的な妖艶さの対比が最高でしたね!
 リヴィアの情欲も切なくてグッときました。リヴィアが髪を一房切り取りフランツのロケットに忍ばせたシーンは、いかにも重たい女って感じで若干引きつつも、いいぞいいぞ!と思いました。リヴィアが現代日本に生きていたらaiko聴いてるね!絶対俺と気が合うわ(笑)
 あと、リヴィアが若い女子じゃないのも良かったです。歳を重ねるといろいろと滲み出る魅力があるんですよね。彼女の場合は歳相応の経験を積めなかった脆弱な感じが切なさを醸し出していたと思えました。俺は薄幸フェチも入っているので、リヴィアは本当にど真ん中でしたね〜。


 ホームグラウンドであるブルースタジオで『家族の肖像』やってるので、少しずつヴィスコンティ伯のガーエーも観ていきたいと思いました。長尺は観ないと思うけど。
KKMX

KKMX