ちろる

夏の嵐のちろるのレビュー・感想・評価

夏の嵐(1954年製作の映画)
3.9
高貴で美しく着飾るアリダ ヴァリが、髪を振り乱して般若のような醜い女となるまでのヴィスコンティが描くメロドラマのような人妻不倫の物語。

イタリア人中年の公爵夫人と若きオーストリア中尉と紡ぐ美しいとは言えないゲス不倫の物語ですが、壮大な音楽を背景に流れるイタリア貴族の絵画のような格式高いシークエンスは、オープニングの長回しで映し出されるオペラ劇の延長のようにも見えて、作品全体に溢れるクラシカルで芸術的な映像は実に重厚感があってワクワクさせられる。
アリダが演じる気高い公爵夫人が、初めての恋を目の当たりにして、十代の少女のように周りが見えないほどに自分を見失い、最終的に消化されない想いに憎しみにまみれていくまでの表情の変化で見せる演技は、今見たらありきたりなこんなストーリーの中であっても色褪せない素晴らしさがある。
そして、美しき中尉を演じたファリー グレンジャーの胡散臭さプンプンのいい意味でわかりやすい演技は、始めから悪い予感しか感じさせず、期待通りほんとうに見事なゲス男ぶりを見せてくれて、美しく着飾った夫人がそのクズ男の罠に落ちてどんどん愚かな女なるという予定調和に、こうはなりたくないと思いつつも楽しん観てしまう自分もいた。

ヴィスコンティの描く悲劇の中でも最も救いようのない虚しい人間関係を描いた本作品は、心に打つものは何もないのだけども、こんなしょうもない恋愛模様を壮大に、芸術的なものしてしまう才能にはひたすら感服してしまうし、全くもって共感性もなく、好きな系統のストーリーではないのに、なんとも言えぬ重厚感な雰囲気に気圧されて、結果的には観ることができて良かった思ってしまうヴィスコンティ作品の魔力、恐るべし。
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