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家宝のnetfilmsのレビュー・感想・評価

家宝(2002年製作の映画)
3.8
 聖母マリア荘を有する良家に生まれたアントニオ(イヴォ・カネラシュ)と、その家のメイドを母にもつジョゼ(リカルド・トレパ)は、家族同然に育った幼なじみ。ジョゼは美女ヴァネッサ(レオノール・シルヴェイラ)と組んで怪しげな仕事に手を染めている。ヴァネッサはアントニオの元恋人でもあった。一方のアントニオは“聖母マリア荘”の莫大な遺産を相続し、幼なじみのカミーラ(レオノール・バルダック)と結婚した。カミーラはかつてジョゼと愛し合っていたのにもかかわらず、富豪となったアントニオを夫に選んだ。そしてこの結婚を機に、それまで闇に隠れていた4人の複雑な関係に新たな変化が生じ、彼らの運命は大きく狂い始める。冒頭、タイトルバックのところで正面から聖母マリア荘を固定カメラで据える。家政婦がふと見つめた先には、家主であるアントニオの写真があり、その後バスに乗って、誰かの元へ相談に向かう。

 映画の中では、主に2つの力が描かれる。1つは何とかアントニオに幸せになって欲しいと思う家族や後見人やメイドの思い。そしてもう1つはアントニオとカミーラを何とか別れさせたいジョゼとヴァネッサの思いである。前半部分ではその2つの思いの拮抗する様子が描かれている。メイドが後見人に相談に行く場面もそうだが、後見人ルイス・ミゲル・シントラの屋敷に色んな人が向かう場面が車窓の風景を通して、律儀に何度も描かれる。それも行きと帰りの両方を執拗に追い、風景ショットまで加える丁寧さで何度も反復される。何度か繰り返される大勢の食卓の場面では、常に会話を戦わせているのは後見人やヴァネッサやジョゼであり、その姿を周囲の人間は苦々しく思ったり冷たい視線で見つめたりしている。それがいつの間にかヴァネッサとカミーラの立場が逆転していく。

 カミーラとヴァネッサ、カミーラとジョゼの内面の葛藤の描写はあっても一番大切なように思えるカミーラとアントニオの夫婦同士の描写はほとんど見られない。オリヴェイラはとりわけ、2人の女性のエゴ剥き出しの関係性に注力している。カミーラの邸宅で2人は一切の視線を交わさないまま、静かに闘い続ける。そこにアントニオの姿は最初から最後まで影も形もない。
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