ちろる

遠い雲のちろるのレビュー・感想・評価

遠い雲(1955年製作の映画)
4.1
バックミュージックの壮大な太鼓の音とともに遠ざかる汽車がトンネルに向かい、終の文字の裏に映し出されるレンゲ草の中に残された「狭き門」の本の映像に作品の重みを一気に感じさせる名作。
義姉さんありがとうございます。にありがとうございますと返す冬子の言葉も訳わからないようでも妙に腑に落ちてしまう私もどっぷり日本人なのだと認識してしまう。
飛騨高山の小さな田舎町に休暇で戻ってきた圭三と、結婚してたった3年で未亡人となってしまった幼馴染の冬子。
時間が止まったよう冬子との再会に心躍らせる圭三とは逆に、「世間の目」に縛られ、母として、嫁としての責任が重くのしかかる冬子にとって圭三の存在が自分の揺らがせる存在になった事は間違いない。
なんでもうこうして生きていこうと決めた時に、、、という鬱陶しい思いと、今度こそ愛される女として自分自身の人生を生きることができるのではないかという期待感と入り混じった冬子の迷いは時代は違えど痛いほど伝わる。
女の心は複雑すぎてその本人でさえも時々自分の意思が分からなくなることがある。
ほんと女って厄介である。
この物語のラストにモヤモヤが残る人も、逆に安心する人もいるのだろう。
どちらにしてもなんだかとても遣る瀬無い気持ちにさせるラストシーンは素晴らしく文学的でいつまでも心にこびりつくのは間違い無い。
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