MASH

キャリーのMASHのレビュー・感想・評価

キャリー(1976年製作の映画)
5.0
観る前はB級ホラーの類かと思っていたが全くそんなものではない。その映画としてのテーマ性に役者たちの強烈な演技、ブライアン・デ・パルマ監督による強烈なビジュアル。全てが見事なまでに完璧に噛み合わさっている。青春ホラー映画の礎的存在の映画であるが、後にも先にも無いような他の映画とは全く違う圧倒的な存在感があるのだ。

ホラー映画といえど、この映画の恐怖の対象はキャリー自身ではない。学校内のいじめであったり宗教というものを盾にした親からの虐待、そういう現実にある恐怖をホラーとして描いているのだ。

そして想像を絶する破壊シーンも圧巻だが、僕が一番素晴らしいと思ったのはシシー・スペイセク演じるキャリーの映し方だ。最初ら辺のキャリーはお世辞にも綺麗ではなく、暗くて不気味ないじめられっ子という感じなのだが、プロムでのシーンの彼女は本当に綺麗なのだ。彼女自身の演技もあるし、ライティングや映し方やメイク全てが彼女の持つ純粋さだったり美しさを完璧に引き出している。そして彼女が幸せそうな笑顔をする度に、この後に起こる悲劇を思わせて胸が締め付けられるのだ。

プロムでの惨劇の後、キャリーが向かうのは忌まわしき母親がいる家。僕はてっきり母親も殺すのかと思ったが、彼女は母親にまるで幼い少女のように泣きつくのだ。あんなに酷いことをされ続けてきたのに、最後にはその親の元に戻ってしまう。そしてその思いすらも裏切る母親。ある意味この映画の一番のホラー要素はこの母親だろう。

ジャンルとしてはホラーに属するのだろうが、本質的にはホラーとはまた違う気がする。この映画の本質は悲しみにあると僕は思う。確かに彼女の母親は"あれ"だし、酷いいじめを受けていた。しかし救いの手が全くなかった訳ではない。プロムの時だって実際に彼女を笑い者にしたのは数人だろう(キャリーには全員が笑っているように見えていたが)。でも最終的にはそういう救いの手が届かなかった。あと少し何かが違えばキャリーの人生ももう少し良い方向に向かっていたのかもしれない、そう思わせる悲しさがこの映画にはある。

そしてさらにすごいのが、それらのことを描きながらも映画としての面白さを失っていないのだ。ホラーとしての盛り上げ方やキャリーの暴走シーンの派手さ、それら全てが映画のテーマを損なうことなく画面いっぱいに広がっている。テーマ性と映画的なものというのはなかなか共存しにくいものだが、この映画はどちらも損なうことなく作ってある。

超能力を持った少女が暴走するという話の筋だけ聞くと、どことなく下らない映画にも聞こえなくはない。しかし、この映画は天才的な監督と素晴らしい役者たちによって、映画的な面白さをみせると共に1人の少女の苦しみと悲しみを真摯に描いた作品になったのだ。
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